交際0日婚、冷徹ホテル王はかりそめ妻を溺愛で堕とす

「どうかしたの?」

「いや、なんでもない。小春、ちゃんと店の戸締りしたか?」

「うん、鍵もかけたよ」

祖父は私の言葉に安心したように「そうか」と言って部屋を出て行った。

おじいちゃん、どうしたのかな?

横顔だったけれど、ファックスの用紙を見ながら不快そうに表情が歪んでいたような気がした。様子がおかしいと直感して、ごみ箱へ捨てられている先ほどのファックスの用紙に目が行く。注文をファックスで送ってくる人もいるけれど、祖父が捨てたのは注文にしてはやたら長くて違和感があった。私はゴミ箱からファックス用紙を拾い、皺を伸ばして広げてみる。

な、なにこれ……。

――浅見屋の和菓子はマズイ。

――店員の態度も悪い。

――最悪な店、早く潰れてしまえ!

そこには浅見屋の誹謗中傷がつらつらと書かれており、目で覆いたくなるような罵りの言葉が並べられていた。一行一行、言葉の刃が胸に突き刺さる。視界がぶれてきたと思ったら用紙を手にしている指が無意識に震えていた。

「小春ちゃん、もう遅いから――」

「おばあちゃん……」

背後から声をかけられ振り向く。祖母は私が手にしているファックス用紙を見て、「かえりなさい」と続くはずだった言葉が凍りついたようだ。