交際0日婚、冷徹ホテル王はかりそめ妻を溺愛で堕とす

芽衣と飲んだ数日後。

【今夜は早く家に帰れそうなんだ。だから先日の穴埋めをさせてくれ】

と仕事が終わって何気なくスマホを見たら、高城さんからそんなメッセージが入っていて思わず声が出た。立ち退きの件がなくなってお祝いしようと言ったとき、会議で遅くなるため日を改めようということになっていたけれど、それを律儀に覚えていてくれたと思うと嬉しくてたまらなかった。どこかレストランを予約しようか、と言われたけれどとにかく私は高城さんと二人きりでゆっくりしたかった。

だから、今夜は私が腕を振るって料理をするとメッセージを送ったら、すごく楽しみにしていると返信がきた。たんまりと食材を買い込んで、キッチンの前に立つ。時刻は十九時。予定ではあと二時間ほどで彼が帰宅する。

ひとり暮らしのときは比較的自炊が多かった。だから自然と料理を覚え、祖父母にも何度か手調理を振舞ったことがある。「美味しい!」と口をそろえて言ってくれたから、きっと高城さんも喜んでくれるはずだ。高城さんにあらかじめ和洋中のどれが食べたいかリクエストを聞いたところ、和食が好きだそうだ。そして色々考えて私の頭の中にあるレシピからピックアップした料理は〝筑前煮〟だった。

鶏ももは脂を少しだけ落としてひと口大に切る。皮目を下にして鍋に置くと、すぐに香ばしい匂いが立ちのぼった。出汁は昆布と鰹節。薄口醤油に酒とみりん。火加減は弱めにしてじっくり煮含める。野菜に味が染みる時間だ。大根と油揚げの味噌汁の準備もして、ご飯が炊きあがる音と蒸気の音を聞きながら、高城さんの帰りを待つことにした。