交際0日婚、冷徹ホテル王はかりそめ妻を溺愛で堕とす

「そうだったんですね、じゃあ、今夜はお祝いしましょう! 私、早めに帰って今夜の夕食気合い入れて作りますから」

そうと決まれば今夜はちょっと奮発して……なんて思っていると私のワクワクした気持ちとは裏腹に高城さんの残念そうなため息が聞こえた。

『すまない、今夜は少し遅くなりそうなんだ。会議のリスケが入ってしまってね』

「そうですか、残念ですけどじゃあまた日を改めましょう」

『ああ、必ず穴埋めはするから』

胸の中で膨らんだ風船のような期待が一気に萎える。私は早々に電話を切ってスマホをバグにしまった。

仕方ない、仕事なんだから。彼に会えなくなるわけじゃない。お互いに仕事が終われば帰ってくるところは一緒なんだし。

先日、高城さんと初めてキスをした日の夜のことがふっと思い起こされる。彼は私を抱きしめて何度も「大丈夫」と言ってくれた。あのときはわからなかかったけれど、もしかしたら立ち退きの話はきっとなくなるから大丈夫だと、こうなることを見越した「大丈夫」だったのかもしれない。

私はそっと指先を自分の唇に添える。突然のキスで瞬間的なことは覚えていないけれど、彼の温かくてやわらかな唇は鮮明に記憶している。

あぁ、もう仕事に戻らなきゃ。

ハッとして私はパンパンと両頬を軽く手のひらで叩く。思い出しただけで顔が赤くなっているのがわかる。頬に手をあてても熱は簡単には引いてくれなかった。