ロビーの一階で待ち合わせのはずなんだけど……。
ラグジュアリーなロビーには大理石のテーブル、天然木のイス、本革のソファなど、重みを感じる上質な素材を用いたインテリアが置かれていて、その上品な空間が私の緊張を幾分かほぐしてくれた。広いロビーに視線を巡らせると一番奥のソファに木谷さんがこちらに背を向けて座っているのが見えた。私は待たせてしまったかと思い、小走りに近づいて声をかけようとした。
「木谷さ――」
「あぁ、うん、まぁ大丈夫だろ」
よく見ると木谷さんはスマホを耳にあてがい誰かと電話中のようだった。
「浅見屋さえ潰して立ち退けば、あとは順調にホテル建設の計画を煮詰めていくつもりだ。金さえ渡しときゃいいだろ」
え?
周りのざわめきも、近くでコーヒーを飲んでいる客がカップを置く音も、すべて遠くに感じる。
な、なんてひどいことを言うの? 金さえ渡しときゃって……信じられない。
「あの和菓子屋の娘も手に入れて、必ず成功させてみせる」
声をかけようと出かかった言葉が喉の奥で行き場を失ってしまう。それをゴクッと押し戻すと、今度は吐く息が細く震えてきた。きっとこれは怒りからくるものだ。私はいまだかつてここまで人に対して怒りを覚えたことはない。木谷さんは明らかに浅見屋と私のことを侮辱した。私の目の前で。胸の奥にずしりと冷たいものが沈んでいく。指先まで感覚がなくなるような気がした。
ラグジュアリーなロビーには大理石のテーブル、天然木のイス、本革のソファなど、重みを感じる上質な素材を用いたインテリアが置かれていて、その上品な空間が私の緊張を幾分かほぐしてくれた。広いロビーに視線を巡らせると一番奥のソファに木谷さんがこちらに背を向けて座っているのが見えた。私は待たせてしまったかと思い、小走りに近づいて声をかけようとした。
「木谷さ――」
「あぁ、うん、まぁ大丈夫だろ」
よく見ると木谷さんはスマホを耳にあてがい誰かと電話中のようだった。
「浅見屋さえ潰して立ち退けば、あとは順調にホテル建設の計画を煮詰めていくつもりだ。金さえ渡しときゃいいだろ」
え?
周りのざわめきも、近くでコーヒーを飲んでいる客がカップを置く音も、すべて遠くに感じる。
な、なんてひどいことを言うの? 金さえ渡しときゃって……信じられない。
「あの和菓子屋の娘も手に入れて、必ず成功させてみせる」
声をかけようと出かかった言葉が喉の奥で行き場を失ってしまう。それをゴクッと押し戻すと、今度は吐く息が細く震えてきた。きっとこれは怒りからくるものだ。私はいまだかつてここまで人に対して怒りを覚えたことはない。木谷さんは明らかに浅見屋と私のことを侮辱した。私の目の前で。胸の奥にずしりと冷たいものが沈んでいく。指先まで感覚がなくなるような気がした。



