交際0日婚、冷徹ホテル王はかりそめ妻を溺愛で堕とす

『小春さんは、どんな様子ですか?』

『まだ落ちこんではいるようですけど……それでも金銭的なことはなに不自由なくしてやれてます。ありがとうございます』

『いえ。このくらいしかできないのが逆に申し訳ないくらいです』

祖父と若い男性の声だった。なぜかそのときの会話が頭にずっと残っていて、男性が私の名前を知っていて、心配してくれているような感じだったのと、『金銭的なことはなに不自由なく』という祖父の言葉を聞いて、もしかしたらあしながおじさんならぬ〝あしなが王子さま〟みたいな存在がいるのかもしれない。そしてその人こそがあの男性なのかもしれない。そう思ったら居ても立っても居られなくなって、私は衝動的に店先に飛び出した。

「待ってください!」

その後に続く言葉なんて考えていなかった。にもかかわらず、店の外に出て行こうとする彼を呼び止めた。

「あ……」

私の声に彼が肩越しに少し振り向いた。太陽の光が射しこんだせいで容姿はおぼろげだったけれど、うっすら口元に優しい笑みを浮かべていて、思わず声が漏れてしまうほどその光景は鮮明に覚えている。そして彼は何も言わずにそのまま店を後にした。

素敵な人だったんだよなぁ……。