交際0日婚、冷徹ホテル王はかりそめ妻を溺愛で堕とす

こんなふうに食事に連れて行ってくれるのは結婚してから初めてだ。忙しい高城さんは出張も多く、数日家を空けることもしばしばだ。主に最近は泊りで地方への視察に出向いている。

「新しいプロジェクトが立ち上がったばかりで、新婚早々退屈させてるな」

食前酒のグラスを片手に、高城さんが申し訳なさそうに眉尻を下げる。彼は私を気遣ってたぶん、無理にでも今夜の時間を割いてくれたのだろう。車で迎えに来てくれたとき、後部座席に仕事の書類やら資料が置かれていて、今の今まで仕事をしていたのだと、それが物語っていた。

「いえ、実を言うと私、まだ結婚したっていう実感がなくて、あ、後悔してるとかそういうことではなくて……」

あぁ、もう何言ってるんだろ、ちゃんと言葉を考えて言わなくちゃ。

それに今夜、私は高城さんに伝えないといけないことがある。当初は婚約者として木谷さんに紹介する予定だったけれど、とんとん拍子に事が進んで夫として彼に紹介することになった。恋人より婚約者より、木谷さんに諦めてもらうには配偶者として高城さんは心強い存在だ。木谷さんと結婚しなくて済んだし、なにより浅見屋の存続の危機をこれで回避できるかもしれないと思うと少し肩の荷降りる思いだ。でも、そんな私情に高城さんを利用している罪悪感もある。

「自分が女性にこんな求婚するようなタイプだったなんて、自分自身初めて知ったよ。きっと君がそれだけ俺の心を揺さぶるような存在だったんだな」

前菜に白身魚のテリーヌ、そしてコンソメスープ、そしてメインに舌平目のムニエルが運ばれてきた。美味しい食事に併せてドキリと胸打つ甘い言葉に私は惚けてしまいそうになる。

高城さん、やっぱり素敵な人だな……。