交際0日婚、冷徹ホテル王はかりそめ妻を溺愛で堕とす

背後から祖父の声が飛んできてハッと我に返る。出来立ての饅頭を並べている途中でつい余計なことを考えてしまい、手が止まっていたようだ。

時刻は十四時。たいてい三時のおやつを買いに来るお客さんで混む時間帯だけれど、今日は今にも雨が降りそうな天気だからか、店内には二人くらいしかお客さんがいない。祖父が毎日張り切って作っている和菓子たちがなんだか虚しい。

「今日も忙しいのかな?」

饅頭を並べ終わって立ち上がったとき、目の前にスッと誰かの影が立ちはだかった。

「小春ちゃん、こんにちは」

「木谷さん……」

顔を合わせたら今一番テンション下がる人第一位の木谷さんが相変わらず高そうなスーツを身にまとい、にっこり笑って立っていた。
なによ「今日も忙しのかな?」って嫌味のつもり?

見ればわかるガランとした店内に小さくため息をついて、明らかに不機嫌だとアピールするように私は彼から目をそらした。

「今日はどうしたんですか? 発注ストップしようとしてる店に他になにか?」

嫌味を嫌味で返すような子どもっぽいことを言ってしまった。けれど、この人は浅見屋をなくそうとしている。そう思うとふつふつと怒りがわいた。

「店に用はないけど、小春ちゃんがどうしてるかなって近くを車で通ったから寄ってみたんだ。あのさ、今夜一緒に食事でもどうかな? 小春ちゃんが喜びそうなレストランを見つけたんだ。中華なんだけど最近流行りの――」

あぁ、本当によくしゃべる人。

高城さんの低音で穏やかな口調とは大違い。一度嫌だと思うととことん嫌になってしまうものだ。