交際0日婚、冷徹ホテル王はかりそめ妻を溺愛で堕とす

あっという間にペロッと水まんじゅうを平らげて口の中に広がった甘味を堪能する。祖父母が色々頑張っているにも関わらず実際の売上は下り坂。今にも潰れそうな和菓子屋なのに……だから私はずっと不思議に思っていることがあった。

私が通っていた大学は都内にある私立で学費もそこそこかかっていたはずなのに、支払い滞納することなく無事に卒業できた。誕生日には流行の高価な服やバッグ、アクセサリーをプレゼントしてもらい、それと一緒に贈られてきた真っ赤なガーベラの花束が中でも一番好きだった。そして当時住んでいたアパートの家賃と生活費まで祖父母がお世話してくれた……と、ずっとそう思っていたけれど、この店の経営状況を考えてみれば到底無理なはずだ。それに花束のプレゼントなんて、どう考えても祖父母の柄じゃない。

先日、うちの店よりもお客さんが入っていそうな雑貨屋が閉店した。それなのに浅見屋はなんとか潰れずにやってこれているのも謎だ。
そういえば……。

試食の水まんじゅうがのっていたお皿をシンクに片付けながらふと、〝彼〟のことが頭に過った。恋愛経験は乏しい私だけど、ただひとりだけずっと憧れてる人がいる。

「おじいちゃん、水まんじゅうごちそうさま、すっごく美味しかったよ」

「おう、そうか」

「うん、絶対ヒット商品になるね」

祖父も仕事が終わったようだ。特に手伝うことがなさそうだとわかると、私は店の二階にある自室へ戻った。ドアを閉めると同時に彼の記憶の輪郭がふつふつと思いだされる。

あれは両親を亡くしてすぐの大学生の夏休みだった。店の奥で作業していたら、店先から不意に話し声が聞こえてきた。