交際0日婚、冷徹ホテル王はかりそめ妻を溺愛で堕とす

「私は――」

それから自己紹介から始まり、自分がどこに住んでいて他界した両親の父方の祖父母が営む和菓子店で手伝いをしていることや、クライアントの木谷ホステルグループの木谷さんから店の立ち退きを強いられていて頭を痛めていることなど、合間合間に相づちを打ちながら親身に聞いてくれる高城さんに思わず涙が出そうになる。

「木谷……か」

親指と人差し指で顎を挟むようにして何度もなでるような仕草をし、ここにきて初めて高城さんの眉間にしわが寄った険しい表情を見た。床の一点を見つめるようにし、こんな嫌悪感をあらわにした表情でさえ見とれてしまうくらい彼は整った顔立ちをしている。そんなふうに思っていると不意に高城さんが小さく咳払いをして私に視線を向けた。

「他に木谷は君になんて言ってきてるんだ?」

「……私、木谷さんと結婚なんてしたくないんです。だから、その……恋人がいるからって嘘をついたんです」

だんだん自分がこのパーティーに参加した不純な動機に差し迫ってきて、気まずさで言葉がしどろもどろになる。

「嘘ってことは、本当は恋人はいないんだな?」

「はい」

「それで木谷はおとなしく引き下がったのか? そうは思えないが」

ん? もしかして、高城さん、木谷さんのこと知ってるのかな? 口ぶりからしてあまり交友関係は良くなさそうだけど……。