交際0日婚、冷徹ホテル王はかりそめ妻を溺愛で堕とす

「小春! お待たせ」

待ち合わせの時間より十分遅れて現れた芽衣はいつになくばっちりメイクをキメていて、ドレスもひと目で質のいいものだとわかるようなショルダーストラップのロングスカートワンピースだ。大人っぽいネイビーな色合いが彼女によく似合っている。安物ドレスを着ている私はなんだか肩身が狭い。

せかされるままにパーティー会場にたどり着くと、目の前にまるで日常から切り離されたような世界が広がっていた。

「わぁ、すごい……」

思わず心の声が漏れてしまうほど、それは非日常的な光景だった。大広間には五十人くらいの招待客が飲み物を片手に話に花を咲かせていた。明るすぎず暗すぎずの間接照明が落ち着ける空間を演出していて、革張りのソファーに凭れている人やテラスで談笑している人さまざまだ。

まるでおとぎ話に出てくる舞踏会ね。

男性はそれぞれネクタイをカチッと締めて、フォーマルスーツを着こなし女性はどことなく気品のある四十代から五十代の奥様タイプが多く見受けられる。芽衣はこういった場に慣れているようで、自分の知り合いを見つけては私のことを〝学生時代からの友人〟と言って紹介した。そして時間が経つにつれて芽衣の友人も増えてきたようで、なんとなく彼女に遠慮しなきゃいけないような気がしてきた。

「え? ひとりでゆっくりするって? そんなこと言わないで一緒に回ろうよ、まだあとから友達が何人か来て合流する予定なのに、小春のこと紹介するよ」

「ううん、私は大丈夫。ちょっと人に酔っちゃったみたいだから座ってゆっくりする。芽衣は私に構わずお友達と会ってきて」

大丈夫、と言って笑って見せると芽衣はなんだかもの言いたげな表情で渋々うなずいた。

サンドイッチやクラッカーなど軽食が用意されているようだけれど、緊張して気持ちが落ち着かないのかあまり食欲がない。いつもならいい匂いに誘われていくつもお皿に盛っているだろう。