交際0日婚、冷徹ホテル王はかりそめ妻を溺愛で堕とす

あぁ、どうしよう!

彼氏を紹介したら立ち退きの件を考えてくれる。そのことだけにつられてつい馬鹿なことを言ってしまった。

あんなこと言わなきゃよかった。

彼氏どころか恋人らしい男性なんていたことがない。実在しない恋人をどうやって木谷さんに紹介したらいいのか、結局自分の首を絞める結果となってしまった。それにせっかくお守り代わりにと思って身に着けて行ったネクタイピンのネックレスが無残にも木谷さんにチェーンを切られてしまった。普段は温厚で口調も柔らかで、なにも知らない周囲の人にとっては優しい誠実な紳士と思われているのだろう。だけど木谷さんは時々、本当の自分の感情を一瞬でも表に出すことがある。

木谷さんと店で別れて重い足取りで家に帰り、自分の部屋に入った途端にどっと疲れが押し寄せた。ベッドに倒れ込むように身体を投げ出してはぁとため息をつく。

今から木谷さんに電話して、恋人の話は嘘ですって言う? ううん、そんなこと言ったら『彼氏がいないなら僕と付き合おうよ』ってしつこく付きまとわれるに決まってる。でも恋人を紹介したら立ち退きの話がなくなるかもしれない……。

も~! いったいどうしたら――。

悩む頭をガシガシしようと手を伸ばしかけたそのとき、バッグの中のスマホが鳴った。

時刻は二十二時、こんな時間に誰だろう? と画面に映し出された名前を見て出る。