待ち合わせ場所に指定されたのは、おしゃれなカフェだった。あまりにもキラキラしすぎていて入るのすら躊躇われたが、メニューを開いてさらにびっくり。パンケーキが二五○○円……! た、高すぎる……。家と職場を往復するだけの生活だから知らなかったが、パンケーキって、こんなに高価なものなのか。チラリと横の席を見ると、隣の女子高生二人組が美味しそうにパンケーキを頬張っている。
私はそっとメニューを閉じ、アイスコーヒーだけを注文する。人と待ち合わせするとき、相手よりも先についていたいのが私の性分だ。仕事ではもちろん当たり前にすることだけど、プライベートでも、ましてやこんな初対面の人と会うのだから当然だ。それにしても、三十分前は早すぎただろうか。手持ち無沙汰でそわそわする。
……仕事でもするか。
緊張を忘れるには、忙しくしていることが一番だ。そう思い、鞄からノートパソコンを取り出す。来週までに調整しなければならない案件がある。ちょっとの時間でも有効に活用しなければ……。
「これから大事な約束があるっていうのに、お仕事ですか?」
ようやく作業に集中し始めたころ、突然背後から話しかけられた。驚き振り返ると、絶世の美男子が柔らかい笑顔を浮かべながら私を見下ろしていた。ナチュラルだけどきちんとセットされた髪、爽やかなブルーの襟付きシャツ、ビジネスライクなパンツにはしっかりとベルトが通されさらにかっちりとした印象で、靴もきちんと手入れされた革靴を履いている。整った顔立ちに、相手への礼儀をわきまえた上でスタイルの良さを際立たせる完璧な装い。この男ーーデキる。そう確信すると同時に、こんな人のそばにいる自分の普段通りの装いがひどく恥ずかしく思えた。
「……あ、すみません」
緊張と恥ずかしさを一緒に鞄に詰め込もうとパソコンを畳もうとしたそのとき、彼はぐっと私の前に顔を寄せ、私の目をじっと見た。そして、その大きな手で私の頭をそっと撫でた。
「……綺麗だ」
「えっ」
イケメンの顔がこんなに近くにあること、いきなり頭を撫でられたこと、「綺麗だ」なんて言われたこと。その全てが初めての体験で、私は間抜けな声を漏らしてしまう。さらに恥ずかしくなって、それを誤魔化すために私は言葉を絞り出す。
「あっ、えっと、はじめまして、私ーー」
「はじめまして?」
彼が私の言葉を遮る。
「え?」
「……お母様から僕のこと聞いていませんか?」
「あー……えっとー……」
思い返してみればいろいろ言っていたような気もするが、母のために一度会うだけのつもりだったから生返事していた。私の態度からそのことを察したように、彼は言葉を紡ぐ。
「まあ、それも悪くないですね。またイチから始めましょう」
「ど、どういうことですか?」
彼はクスッと笑って、胸ポケットから名刺入れを取り出し、私に一枚差し出す。
「はじめまして、私、渡真利渉と申します」
「……えええええええ!?」
私は大声を上げながら立ち上がり、その勢いでガツンと椅子が倒れる。周囲の視線が一気に私に向くのがわかったけれどそんなことどうでもよかった。好奇の視線の中で、ただひとり彼だけがイジワルそうな表情で私を見つめている。
「これからよろしくね、神楽福さん」
私は、彼の視線に吸い込まれるように、ただ彼の瞳を見つめることしかできなかった。
私はそっとメニューを閉じ、アイスコーヒーだけを注文する。人と待ち合わせするとき、相手よりも先についていたいのが私の性分だ。仕事ではもちろん当たり前にすることだけど、プライベートでも、ましてやこんな初対面の人と会うのだから当然だ。それにしても、三十分前は早すぎただろうか。手持ち無沙汰でそわそわする。
……仕事でもするか。
緊張を忘れるには、忙しくしていることが一番だ。そう思い、鞄からノートパソコンを取り出す。来週までに調整しなければならない案件がある。ちょっとの時間でも有効に活用しなければ……。
「これから大事な約束があるっていうのに、お仕事ですか?」
ようやく作業に集中し始めたころ、突然背後から話しかけられた。驚き振り返ると、絶世の美男子が柔らかい笑顔を浮かべながら私を見下ろしていた。ナチュラルだけどきちんとセットされた髪、爽やかなブルーの襟付きシャツ、ビジネスライクなパンツにはしっかりとベルトが通されさらにかっちりとした印象で、靴もきちんと手入れされた革靴を履いている。整った顔立ちに、相手への礼儀をわきまえた上でスタイルの良さを際立たせる完璧な装い。この男ーーデキる。そう確信すると同時に、こんな人のそばにいる自分の普段通りの装いがひどく恥ずかしく思えた。
「……あ、すみません」
緊張と恥ずかしさを一緒に鞄に詰め込もうとパソコンを畳もうとしたそのとき、彼はぐっと私の前に顔を寄せ、私の目をじっと見た。そして、その大きな手で私の頭をそっと撫でた。
「……綺麗だ」
「えっ」
イケメンの顔がこんなに近くにあること、いきなり頭を撫でられたこと、「綺麗だ」なんて言われたこと。その全てが初めての体験で、私は間抜けな声を漏らしてしまう。さらに恥ずかしくなって、それを誤魔化すために私は言葉を絞り出す。
「あっ、えっと、はじめまして、私ーー」
「はじめまして?」
彼が私の言葉を遮る。
「え?」
「……お母様から僕のこと聞いていませんか?」
「あー……えっとー……」
思い返してみればいろいろ言っていたような気もするが、母のために一度会うだけのつもりだったから生返事していた。私の態度からそのことを察したように、彼は言葉を紡ぐ。
「まあ、それも悪くないですね。またイチから始めましょう」
「ど、どういうことですか?」
彼はクスッと笑って、胸ポケットから名刺入れを取り出し、私に一枚差し出す。
「はじめまして、私、渡真利渉と申します」
「……えええええええ!?」
私は大声を上げながら立ち上がり、その勢いでガツンと椅子が倒れる。周囲の視線が一気に私に向くのがわかったけれどそんなことどうでもよかった。好奇の視線の中で、ただひとり彼だけがイジワルそうな表情で私を見つめている。
「これからよろしくね、神楽福さん」
私は、彼の視線に吸い込まれるように、ただ彼の瞳を見つめることしかできなかった。

