この場所に来るのはもう三度目だ。もう乗れる時間はとっくにすぎているけれど、大きな観覧車は、ライトアップされて相変わらずキラキラと光っている。この場所に、彼はいる気がした。

 はっきり言って、そうあってほしいという願望だったかもしれない。私はきょろきょろと辺りを見回す。

 いた。はっきりと渡真利君だとわかる。

「渡真利君!」

 私が呼ぶと、彼は驚いた様子でこちらを見た。

「神楽……!? どうしたの!?」

 私は彼にそっと歩み寄る。そして、彼をじっと見つめる。

「ごめんなさい」

 私の言葉に、彼の声が重なる。まったく同じタイミングで私たちは同じ言葉を口にし、そして頭を下げた。顔を上げると、彼は驚いた顔をしていた。たぶん私も、同じ顔をしていたと思う。

「……どうして、渡真利君が謝るの」
「……神楽が頑張ってるの知ってたのに、俺、あんなこと言ったから」
「……うん。でも、それも私のことを考えて言ってくれたんだよね」

 彼はなにも言わず俯く。

「渡真利君、ごめんなさい。私も、渡真利君に同じこと言った。渡真利君のこれまでの頑張りを、ここまでの人生を、否定した。しかも全部、私のためにしてくれたことだったのに」
「……ううん、それは少し違うんだ」
「え?」
「違うっていうか、半分はそうで半分は違う。確かに、神楽のため、神楽を支えたくてやったことなのは間違いないけど、でもそれは、俺のためでもあったんだ。俺が、好きな人のそばに居続けたいから頑張ってこれたことなんだ」
「……うん」
「そのために努力している時間は、苦しかったけど充実してた。だから俺もある意味、俺の人生を生きてるって言えるよ」
「……そうだね」
「うん。でも、神楽がそれを嫌だって、迷惑だって思うなら、もうやめるよ」
「やめるって?」
「もう会わない」
「……渡真利君」
「ん?」
「私今まで、自分の力だけでいろんなことを成し遂げてきたと思ってたし、これからもそう在れるって思ってた。でもね、渡真利君のおかげで、大事なことを思い出したの」
「大事なこと?」
「誰かを好きになる気持ち、守りたいっていう気持ち」
「……神楽」
「渡真利君が今まで私を思ってくれていたように、私も、それ以上のことを渡真利君に返したい」
「だめ、かな」

 渡真利君の目から、ぽろりと涙がこぼれ落ちる。その姿は高校生の頃を思い出させる、あどけなくて、愛おしい姿だった。

「俺……神楽さんが好きです」

 ぽろぽろと涙をこぼす彼とは対照的に、私は自然と顔が綻ぶ。

「回りくどいことしないで、カッコつけないで、ちゃんと伝えればよかったんだ。今も、あの頃も」
「……私も好きです」
「俺の人生に、神楽さんがいてほしい」
「……はい」

 顔を見合わせてにこりと笑う。
 これからは、この好きを彼に返していきたい。私は私の夢を諦めないし、彼も彼の夢を諦めないだろう。私と彼のこれまでが実を結んで、ふたりのこれからが始まる。