私を呼ぶ声に導かれるように目が覚めた。目の前には真っ白な天井。私の家じゃない。ふと横を見ると、渡真利君が今にも泣きそうな顔でこちらを見ている。
「え、渡真利君!?」
「神楽……!」
目の前に彼がいることに驚き、勢いよく上体を起こす。
「おい! そんな急に起き上がるなって!」
「えっ、なん……私、どうして……」
この状況が理解できず、私は取り乱す。
「倒れたんだ。過労だってよ」
「うそ……」
彼に言われて初めて、彼との帰り道に倒れてしまったことを思い出し、やってしまった、という気持ちと彼への申し訳なさでいっぱいになる。
「働きすぎだ」
「うう……迷惑かけてごめん」
「……神楽」
「ん?」
「仕事、セーブしたらどうだ?」
「……え?」
彼の言葉が入ってこない。もちろん聞こえてはいるのだけれど、理解が追いつかなかった。
「無理しすぎなんだよ。学生の頃から無理して、青春まで無くして。それで今は、自分の体を犠牲にしてる。仕事だけが人生のすべてじゃないだろ。そうだな、たとえば……結婚……して、旦那に頼ってみる……とか……」
この人は、なにを言ってるんだろう。
確かに今、仕事で無理をして、自分の体調を崩して、渡真利君にも迷惑をかけた。だけど、なんで、仕事をセーブしたらとか、結婚とか、そんな話になるの。なんでそんなこと言われなきゃいけないの。この仕事を、夢を、私がどれだけ大切にしているか知ってるくせにーーそう思ったら、怒りと同じくらい、寂しさや悲しさみたいなものも同時に込み上げてくるのがわかった。
「……渡真利君はさ、なんでこの仕事に就こうと思ったの?」
「え?」
「高校のときは、建築士になりたいなんて言ってなかったでしょう? 仕事はたくさんあるのに、なんで一級建築士なんて難関の資格とって就職したのかなって」
「それは……」
「教えてくれない?」
彼は少しの間言いにくそうにしていたが、私の目を見て、まるで観念した、とでも言うように話し始めた。
「君を、守りたかったんだ」
それから彼は、昔の自分のこと、私が転校したあとのこと、そこから今に至るまでの十二年間について、教えてくれた。変わりたいと思ったこと、私を守りたいと思ってくれたこと、そのための術として、建築士を選んだということ。彼の言う「私のため」という言葉は、私にとって、すごく、すごく窮屈に感じた。
「……高二になってすぐの頃にね、父が亡くなったの。それで生活が苦しくなって、お母さんの実家がある静岡に行ったの。噂になってたかな」
「……ああ」
「昔、渡真利君に話したことあったよね。インテリアデザイナーになって、いつか父と一緒に仕事がしたいって。神楽家の家も作りたいって。その夢は叶わなかったけど、インテリアデザイナーになることは諦めたくなかった。父と、つながっていられる気がしたから」
「それはわかってーー」
「わかってないよ!!」
思わず声を荒げてしまう。
「……渡真利君には感謝してる。あの頃から十二年間も私のことを気にかけてくれたこと、守ろうとしてくれたこと。でもね、渡真利君……私には、この夢しかなかったの。お父さんを失って息をするのも辛かったあの頃、自分を支えられるのは。だから、その夢だけは、この仕事だけは手放したくない。これが私の人生なの。だからね、渡真利君……」
彼は今にも、泣きそうな顔をしている。
「渡真利君も、自分の人生を生きたほうがいいよ」
彼のことを思っての言葉だったけれど、なぜだろう。彼が傷つくのが、手に取るようにわかった。
「え、渡真利君!?」
「神楽……!」
目の前に彼がいることに驚き、勢いよく上体を起こす。
「おい! そんな急に起き上がるなって!」
「えっ、なん……私、どうして……」
この状況が理解できず、私は取り乱す。
「倒れたんだ。過労だってよ」
「うそ……」
彼に言われて初めて、彼との帰り道に倒れてしまったことを思い出し、やってしまった、という気持ちと彼への申し訳なさでいっぱいになる。
「働きすぎだ」
「うう……迷惑かけてごめん」
「……神楽」
「ん?」
「仕事、セーブしたらどうだ?」
「……え?」
彼の言葉が入ってこない。もちろん聞こえてはいるのだけれど、理解が追いつかなかった。
「無理しすぎなんだよ。学生の頃から無理して、青春まで無くして。それで今は、自分の体を犠牲にしてる。仕事だけが人生のすべてじゃないだろ。そうだな、たとえば……結婚……して、旦那に頼ってみる……とか……」
この人は、なにを言ってるんだろう。
確かに今、仕事で無理をして、自分の体調を崩して、渡真利君にも迷惑をかけた。だけど、なんで、仕事をセーブしたらとか、結婚とか、そんな話になるの。なんでそんなこと言われなきゃいけないの。この仕事を、夢を、私がどれだけ大切にしているか知ってるくせにーーそう思ったら、怒りと同じくらい、寂しさや悲しさみたいなものも同時に込み上げてくるのがわかった。
「……渡真利君はさ、なんでこの仕事に就こうと思ったの?」
「え?」
「高校のときは、建築士になりたいなんて言ってなかったでしょう? 仕事はたくさんあるのに、なんで一級建築士なんて難関の資格とって就職したのかなって」
「それは……」
「教えてくれない?」
彼は少しの間言いにくそうにしていたが、私の目を見て、まるで観念した、とでも言うように話し始めた。
「君を、守りたかったんだ」
それから彼は、昔の自分のこと、私が転校したあとのこと、そこから今に至るまでの十二年間について、教えてくれた。変わりたいと思ったこと、私を守りたいと思ってくれたこと、そのための術として、建築士を選んだということ。彼の言う「私のため」という言葉は、私にとって、すごく、すごく窮屈に感じた。
「……高二になってすぐの頃にね、父が亡くなったの。それで生活が苦しくなって、お母さんの実家がある静岡に行ったの。噂になってたかな」
「……ああ」
「昔、渡真利君に話したことあったよね。インテリアデザイナーになって、いつか父と一緒に仕事がしたいって。神楽家の家も作りたいって。その夢は叶わなかったけど、インテリアデザイナーになることは諦めたくなかった。父と、つながっていられる気がしたから」
「それはわかってーー」
「わかってないよ!!」
思わず声を荒げてしまう。
「……渡真利君には感謝してる。あの頃から十二年間も私のことを気にかけてくれたこと、守ろうとしてくれたこと。でもね、渡真利君……私には、この夢しかなかったの。お父さんを失って息をするのも辛かったあの頃、自分を支えられるのは。だから、その夢だけは、この仕事だけは手放したくない。これが私の人生なの。だからね、渡真利君……」
彼は今にも、泣きそうな顔をしている。
「渡真利君も、自分の人生を生きたほうがいいよ」
彼のことを思っての言葉だったけれど、なぜだろう。彼が傷つくのが、手に取るようにわかった。

