それからは、夢のような時間だった。彼女ははじめ、俺を見ても、俺だと気づかなかった。「はじめまして」と言われたときは少々傷ついたが、それだけ俺の外見が変わったということだと、ポジティブに受け止めることにした。俺が名の乗ったとき、彼女はすごく驚いていた。俺のこと自体は覚えていてくれたようで、安心した。
その日は、いろいろな話をした。まあ、近況報告にすぎないけれど。彼女は、俺が大手企業の一級建築士だと知ると、すごいすごい、と褒めてくれた。肩書きだけじゃなく、その過程と努力を認めてくれたことが嬉しかった。努力し続けてきたことの成果を感じられた。
彼女が転校してからというもの、必死に勉強した。もともと成績は上位だったけれど、それじゃあ足りないと思った。彼女は俺よりも賢かった。父に言われるがまま嫌々勉強してきた俺とは違って、彼女は夢に向かってひたむきに努力をしてきたのだ。当然だろう。そして彼女はきっと、夢を諦めないだろう。彼女に見合う男になるためには、支えられるような男になるためには、そんな彼女と並ばなくてはならない。そのためには、彼女以上の努力をしなければならない。まずは、この学校では一位にならなくては。いい大学へ進まなくては。一級建築士にも合格しなければ。
止まるな。努力し続けろ。すべては、彼女のために。
そうやって、十二年間、必死に生きてきた。一級建築士という肩書きを手に入れ、卑屈な性格は封印し、外見にも気を遣った。各方面に努力してきたことが今、やっと、報われたのだ。彼女と話しているとき、助手席に座った彼女が俺をじっと見つめているとき、インテリアに真剣な顔で向き合っている姿を見たとき、はじめて酔った彼女を見たとき、観覧車に乗っているとき、仕事をしているときの集中した表情を見たとき。いろんな神楽を間近で感じられて、俺は心から幸せだった。神楽も楽しそうにしてくれていたし、俺を頼ってくれることも、嬉しかった。彼女と対等になれた気がした。ようやく、彼女に誇れる自分として、彼女にアプローチできるかもしれないと思った。
……それがどうだ。
俺は、彼女を支えられていない。俺がそばに居ながら、こんな危険な目に遭わせてしまうなんて。
眠る彼女の横で、俺は唇をぐっと噛み締めることしかできなかった。
その日は、いろいろな話をした。まあ、近況報告にすぎないけれど。彼女は、俺が大手企業の一級建築士だと知ると、すごいすごい、と褒めてくれた。肩書きだけじゃなく、その過程と努力を認めてくれたことが嬉しかった。努力し続けてきたことの成果を感じられた。
彼女が転校してからというもの、必死に勉強した。もともと成績は上位だったけれど、それじゃあ足りないと思った。彼女は俺よりも賢かった。父に言われるがまま嫌々勉強してきた俺とは違って、彼女は夢に向かってひたむきに努力をしてきたのだ。当然だろう。そして彼女はきっと、夢を諦めないだろう。彼女に見合う男になるためには、支えられるような男になるためには、そんな彼女と並ばなくてはならない。そのためには、彼女以上の努力をしなければならない。まずは、この学校では一位にならなくては。いい大学へ進まなくては。一級建築士にも合格しなければ。
止まるな。努力し続けろ。すべては、彼女のために。
そうやって、十二年間、必死に生きてきた。一級建築士という肩書きを手に入れ、卑屈な性格は封印し、外見にも気を遣った。各方面に努力してきたことが今、やっと、報われたのだ。彼女と話しているとき、助手席に座った彼女が俺をじっと見つめているとき、インテリアに真剣な顔で向き合っている姿を見たとき、はじめて酔った彼女を見たとき、観覧車に乗っているとき、仕事をしているときの集中した表情を見たとき。いろんな神楽を間近で感じられて、俺は心から幸せだった。神楽も楽しそうにしてくれていたし、俺を頼ってくれることも、嬉しかった。彼女と対等になれた気がした。ようやく、彼女に誇れる自分として、彼女にアプローチできるかもしれないと思った。
……それがどうだ。
俺は、彼女を支えられていない。俺がそばに居ながら、こんな危険な目に遭わせてしまうなんて。
眠る彼女の横で、俺は唇をぐっと噛み締めることしかできなかった。

