君のこれまでと、ふたりのこれからについて。

 神楽が引っ越してすぐ、彼女が仲良しだった女子生徒に福が引っ越したという静岡のアパートの住所を聞き出した。彼女にお礼と感謝の気持ちを込めて手紙を送りたい、と嘘をついた。彼女に見合う男になるまで絶対に接触はしないと決めていたのだ。

 そのとき聞き出した住所へ赴いたのは、それから十二年がたったころだった。彼女の母親を訪ね、彼女に俺を紹介してくれるよう頼み込んだ。もちろん、そのことは神楽本人には伏せてもらうようお願いをして。

 約束の日、絶対に時間に遅れないように、そして、彼女を完璧にエスコートするために、俺は約束の一時間前にカフェに到着した。周囲を念入りに練り歩き、髪や服装を整え、予習はばっちりかと思えた。しかし直前になって、先に店で待ってスマート感を演出するべきか、それとも彼女より少し遅れて入ってかっこいいヒーロー感を演習すべきか迷ってしまった。

 そうこうしているうちに、神楽がやってきてしまった。十二年ぶりに見る彼女は、本当に綺麗だった。いやいや、そんなことを言っている場合ではない。彼女が綺麗になっていることは容易に想像できていたことだ。想定外なのは、彼女が約束より三十分も早く到着したことだ。これで、先に席についてスマート感を出す作戦は実行不可能になってしまった。

「……よし、行くか」

 意を決して入店する。神楽は奥の方の席、入り口に背を向ける形で座っている。開かれたパソコンにはインテリアのコーディネートスナップが広がっている。仕事の案件だろうか。

 集中しているときに話しかけるのは気が引けたが、かっこよく登場するチャンスなんじゃないかとも思えた俺は、飛び出てきそうなほど脈打つ心臓の鼓動を感じながら、噛み締めるように、神楽に声をかけた。

 「これから大事な約束があるっていうのに、お仕事ですか?」

 少し嫌味な言い方になってしまっただろうか。なんとかカッコつけようとすると、こういうキザな感じになってしまう。自分で自分が恥ずかしい。

 彼女はパッとこちらを見た。
 十二年間、待ち続けた瞬間。彼女の、パッチリとした大きな目。透けてしまいそうなほどに白い肌に、装飾のない薄手のシンプルなパステルグリーンのニットはよく似合ってた。彼女は本当に、心の底からーー。

「綺麗だ」

 思わず顔を近づけ、髪に触れてしまう。自然と言葉が溢れた。彼女の頬が、ポッと赤く染まる。照れているのだろうか。実に愛らしい。