「ねぇねぇ!ノエルは行っちやったから、もう平気だよ!」
 「う、うん……」
 「使命重視なのはいいけど、あなたの気持ちも聞かないでいきなり女王様とか陛下とか言われても、驚くに決まってるじゃない!本当にノエルったら、地上の人の気持ちがわかってないんだから!」

 ベッドの下から聞こえる不思議な女の子の声は、プリプリ怒っているようだった。

 「ねぇ、あなたはどこにいるの?」

 みゆは恐る恐るベッドの上から、声がする下の方をのぞき込んだ。
 すると驚いたことに、ベッドの足下には美しく輝くダイアモンドのティアラと、赤いルビーがはめ込まれた金色の杖が置かれていたのだ。

 「どうしてこんな大事そうなものを床に置いたまま、ノエルっていう子は出て行っちゃったのかな?」

 ティアラと杖は、それぞれフリル付きの立派なクッションの上に置かれていた。

 「とても高価で大切なものなんじゃないの?」
 「えへん!そうだよ!ガラちゃんはとっても大切なものなんだよ!」
 「ぎゃあ!?」

 みゆが杖とティアラを見比べながら不思議がって首をかしげていると、いきなりティアラがしゃべり始めた。

 「さ、さっきからしゃべっていたのは、あなたなの!?」
 「うん!私の名前はガラティアラ。《恩恵の冠》っていう意味だよ!これからあなたを守るのがお仕事なの!大船に乗った気でいいよ!!」

 床の右側に置かれたティアラは元気いっぱいに、こう宣言した。

 「守るって、私を?」
 「うん!」
 「なんで?」
 「救世女王だから」
 「何それ?救世主と女王が混じった感じ?」
 「そうそう、そんな感じ」

 一体どんな感じだというのか?

 みゆは何だか余計に、心配になってきた。

 「私、女王なんかになりたくない。家に帰りたい」
 「うん、いいよ」
 「え!?いいの?」
 「うん」
 「だって、さっきノエルって子は……」
 「ガラちゃんのお話を聞いてくれて、やっぱりヤダなと思ったらムリに女王にならなくてもいいよ。ノエルに言って地上に帰してあげるね!」

 そんなに、うまい話があるだろうか?

 自分を取り押さえるノエルの必死な形相を思い出して、みゆはますます心配になる。

 「うん?まだ何か心配?それなら試しにガラちゃんを頭にのせて、お外に遊びに行こうよ!この世界を見せてあげる!!」

 みゆの不安を知ってか知らずか、キラキラ光るダイアモンドのティアラは、みゆに陽気に提案してきた。