みゆは恐る恐るガラスに右手を触れた。
するとガラちゃんを閉じこめていたガラスケースはたちまちチリになり、みゆの足元に真っ白な砂になって崩れ落ちる。
「みゆ、やったね!」
ガラちゃんは小さく歓声を上げる。
そして手足をもぞもぞ動かして、台座からみゆを見上げた。
ガラちゃんの背中の甲羅には赤い石が一つ、その石を取り巻て白い石が五つ並んでいた。
星座のように美しく珍しい模様に、みゆは目を見張る。
「みゆ、ガラちゃんが今までと違う姿になっても、ずっと好きでいてくれる?」
ガラちゃんの黒いい瞳が、まっすぐにみゆを見つめてくる。
「もちろんよ!何でそんなことを聞くの、ガラちゃん?」
「うん……。また会おうね、みゆ」
ガラちゃんはみゆの返事に安心したようだった。
眠たそうに目をつぶると、丸い頭を前足に乗せた。
そしてまるでこれからお昼寝でもするように、ガラちゃんはそのまま息絶えた。
「ガラちゃん、どうしたの?眠たいの?」
みゆは訳がわからずに、震える両手でそうっとガラちゃんを抱き上げた。
小さな小さなウミガカメの姿になったガラちゃんは、頼りないほど軽い。
いつもみゆの味方になってくれて、元気づけてくれたガラちゃんが何も話さず、動かない。
「ガラちゃん、起きてよ……。目を覚ましてよ」
みゆの瞳からポロポロと涙がこぼれ落ちる。
涙のしずくがガラちゃんの甲羅や頭にぽたぽたと落ちて行く。
けれども、ガラちゃんが目を開けることはなかった。
「ここまで来たのに……。助けに来たのに……。わたし、がんばったよ!わたしだけじゃないよ!アデラールもガラちゃんを心配して一緒に来てくれたんだよ!ねえ、ガラちゃん!返事してよ、いつもみたいに!!」
泣きながらガラちゃんを抱きしめるみゆ。
そんなみゆの姿に、アデラールは後ろから声をかけようと歩み寄る。
しかし、小さな背中を丸めて全身を小刻みに震わせて泣きじゃくるみゆに、どうしてもかける言葉が見つからなかった。
「起きてよう……目を開けてよう……生き返ってよ……ガラちゃあん……!!」
その時、アデラールは我が眼を疑う。
みゆの背中から白くて小さい花のつぼみが、輝きながら開き始めたからだ。
「一体、何が――――?」
息が止まるほど驚く彼の目の前で、つぼみはみるみるうちに大きく膨らむ。
真っ白なバラの花びらが開くように、ゆっくりと輝きを増しながら、花は成長してゆく。
それはバラの花ではなく、真っ白に光る2枚の翼だとアデラールが気づいたその時、みゆの体がふわりと浮き上がった。
みゆの全身からキラキラと温かい光があふれ出した。
その光はみゆを中心に湖の波紋のように、ゆっくりと周囲に広がる。
太陽のように温かい光は基地内部の空気を温め、温められた空気は上昇しながらやがて対流し始めた。
空気の流れは春風のように温かい風となって、基地内部に吹き渡る。
「何だか、今日はすがすがしい風が吹くね」
「本当だ」
「建物の中なのに、不思議だなあ」
基地の人たちは顔を見合わせ不思議そうに首をかしげる。
気持ちの良い、光と風は基地の外にもあふれ出していく。
もう誰も争おうとは思わない。優しい気持ちになっていく。
「いがみ合ったり、腹を立てたり、何だかばかみたいだなあ」
敵国の人たちも、そうでない人たちも、口々にそう言って笑い合った。
一方、見上げるように高い天井近くまで上昇したみゆは、翼を広げてガラちゃんを抱きしめていた。
ガラちゃんは金色の光に包まれていく。まるで金の卵の中に入っているようだ。
その光がひときわまぶしく輝いた。
するとガラちゃんの冷え切った小さな体が、ぽかぽかと温かくなっていく。
そしてキラキラ金色に輝いていた小さな手足がピクンと動いた。
閉じていたまぶたが、ゆっくりと開かれていく。
「ううん~?あれ?どうしたの、みゆ?」
「ガラちゃん……」
「泣いてるの?」
ガラちゃんはみゆの両手のひらから顔を上げると、心配そうにみゆを見つめた。
「もう!誰!?みゆを泣かせたのは?」
怒ったガラちゃんは自分の周囲をキョロキョロ見回した。
「あれ?みゆ、お部屋に体が浮かんでいるよ?アデラールがあんな下のほうにいるよ。アデラールったらダメじゃない!しっかり捕まえてないと、みゆは風船みたいにお空に飛んでいっちゃうよ!」
ぷりぷり怒ったガラちゃんは、足下に見えるアデラールに元気いっぱいに叫んだ。
「これが救世主の真の力……誰かを本気で助けたいと願う心」
アデラールは中空に輝きながら浮かんでいる、みゆたちを見上げながら微笑む。
「でも、なんか変だよ。ガラちゃんの手足の形、前は平べったかったのに今はほら、こんな形」
ガラちゃんは不思議そうに自分の手足を眺めると、前足を上げてみゆに見せた。
「だってガラちゃんは自分の足で歩きたいって言ってたから……。わたしもガラちゃんと一緒に並んでお散歩したかったもん……。だからきっと、2人の願いが叶ったんだよ」
「うん、きっとそうだね!あたしたちの願いが叶ったんだね!すごいね!みゆ!!」
「ガラちゃん……」
みゆはうれしくなって、丸っこい手足の陸ガメになったガラちゃんに頬ずりした。
ガラちゃんも嬉しくて、
「エヘヘ」
と、照れくさそうに笑った。
黄金の光に包まれてみゆとガラちゃんは幸せに笑いあった。
「本当にキミはかっこいいよ、みゆ」
アデラールが2人を見上げながら、うれしそうにつぶやいた。
広がった翼が徐々に小さくなって、床にゆっくりと降りるまで、みゆとガラちゃんはいつまでも笑っていた。
するとガラちゃんを閉じこめていたガラスケースはたちまちチリになり、みゆの足元に真っ白な砂になって崩れ落ちる。
「みゆ、やったね!」
ガラちゃんは小さく歓声を上げる。
そして手足をもぞもぞ動かして、台座からみゆを見上げた。
ガラちゃんの背中の甲羅には赤い石が一つ、その石を取り巻て白い石が五つ並んでいた。
星座のように美しく珍しい模様に、みゆは目を見張る。
「みゆ、ガラちゃんが今までと違う姿になっても、ずっと好きでいてくれる?」
ガラちゃんの黒いい瞳が、まっすぐにみゆを見つめてくる。
「もちろんよ!何でそんなことを聞くの、ガラちゃん?」
「うん……。また会おうね、みゆ」
ガラちゃんはみゆの返事に安心したようだった。
眠たそうに目をつぶると、丸い頭を前足に乗せた。
そしてまるでこれからお昼寝でもするように、ガラちゃんはそのまま息絶えた。
「ガラちゃん、どうしたの?眠たいの?」
みゆは訳がわからずに、震える両手でそうっとガラちゃんを抱き上げた。
小さな小さなウミガカメの姿になったガラちゃんは、頼りないほど軽い。
いつもみゆの味方になってくれて、元気づけてくれたガラちゃんが何も話さず、動かない。
「ガラちゃん、起きてよ……。目を覚ましてよ」
みゆの瞳からポロポロと涙がこぼれ落ちる。
涙のしずくがガラちゃんの甲羅や頭にぽたぽたと落ちて行く。
けれども、ガラちゃんが目を開けることはなかった。
「ここまで来たのに……。助けに来たのに……。わたし、がんばったよ!わたしだけじゃないよ!アデラールもガラちゃんを心配して一緒に来てくれたんだよ!ねえ、ガラちゃん!返事してよ、いつもみたいに!!」
泣きながらガラちゃんを抱きしめるみゆ。
そんなみゆの姿に、アデラールは後ろから声をかけようと歩み寄る。
しかし、小さな背中を丸めて全身を小刻みに震わせて泣きじゃくるみゆに、どうしてもかける言葉が見つからなかった。
「起きてよう……目を開けてよう……生き返ってよ……ガラちゃあん……!!」
その時、アデラールは我が眼を疑う。
みゆの背中から白くて小さい花のつぼみが、輝きながら開き始めたからだ。
「一体、何が――――?」
息が止まるほど驚く彼の目の前で、つぼみはみるみるうちに大きく膨らむ。
真っ白なバラの花びらが開くように、ゆっくりと輝きを増しながら、花は成長してゆく。
それはバラの花ではなく、真っ白に光る2枚の翼だとアデラールが気づいたその時、みゆの体がふわりと浮き上がった。
みゆの全身からキラキラと温かい光があふれ出した。
その光はみゆを中心に湖の波紋のように、ゆっくりと周囲に広がる。
太陽のように温かい光は基地内部の空気を温め、温められた空気は上昇しながらやがて対流し始めた。
空気の流れは春風のように温かい風となって、基地内部に吹き渡る。
「何だか、今日はすがすがしい風が吹くね」
「本当だ」
「建物の中なのに、不思議だなあ」
基地の人たちは顔を見合わせ不思議そうに首をかしげる。
気持ちの良い、光と風は基地の外にもあふれ出していく。
もう誰も争おうとは思わない。優しい気持ちになっていく。
「いがみ合ったり、腹を立てたり、何だかばかみたいだなあ」
敵国の人たちも、そうでない人たちも、口々にそう言って笑い合った。
一方、見上げるように高い天井近くまで上昇したみゆは、翼を広げてガラちゃんを抱きしめていた。
ガラちゃんは金色の光に包まれていく。まるで金の卵の中に入っているようだ。
その光がひときわまぶしく輝いた。
するとガラちゃんの冷え切った小さな体が、ぽかぽかと温かくなっていく。
そしてキラキラ金色に輝いていた小さな手足がピクンと動いた。
閉じていたまぶたが、ゆっくりと開かれていく。
「ううん~?あれ?どうしたの、みゆ?」
「ガラちゃん……」
「泣いてるの?」
ガラちゃんはみゆの両手のひらから顔を上げると、心配そうにみゆを見つめた。
「もう!誰!?みゆを泣かせたのは?」
怒ったガラちゃんは自分の周囲をキョロキョロ見回した。
「あれ?みゆ、お部屋に体が浮かんでいるよ?アデラールがあんな下のほうにいるよ。アデラールったらダメじゃない!しっかり捕まえてないと、みゆは風船みたいにお空に飛んでいっちゃうよ!」
ぷりぷり怒ったガラちゃんは、足下に見えるアデラールに元気いっぱいに叫んだ。
「これが救世主の真の力……誰かを本気で助けたいと願う心」
アデラールは中空に輝きながら浮かんでいる、みゆたちを見上げながら微笑む。
「でも、なんか変だよ。ガラちゃんの手足の形、前は平べったかったのに今はほら、こんな形」
ガラちゃんは不思議そうに自分の手足を眺めると、前足を上げてみゆに見せた。
「だってガラちゃんは自分の足で歩きたいって言ってたから……。わたしもガラちゃんと一緒に並んでお散歩したかったもん……。だからきっと、2人の願いが叶ったんだよ」
「うん、きっとそうだね!あたしたちの願いが叶ったんだね!すごいね!みゆ!!」
「ガラちゃん……」
みゆはうれしくなって、丸っこい手足の陸ガメになったガラちゃんに頬ずりした。
ガラちゃんも嬉しくて、
「エヘヘ」
と、照れくさそうに笑った。
黄金の光に包まれてみゆとガラちゃんは幸せに笑いあった。
「本当にキミはかっこいいよ、みゆ」
アデラールが2人を見上げながら、うれしそうにつぶやいた。
広がった翼が徐々に小さくなって、床にゆっくりと降りるまで、みゆとガラちゃんはいつまでも笑っていた。


