「海の中?」
 「はい」
 「ここは、海底?」
 「さようです」
 「でも、ちゃんと息ができるし」
 「もちろんです。この城は巨大な海底ドームの中にあります。ドーム内には、植物プランクトンの酸素発生プラントがたくさんありますからね!あとで見学できるように、ご案内いたしますね」
 「ヤダ!」
 「は?」

 にこやかに説明していたノエルは、みゆの意外な返事に度肝を抜かれた。

 「私帰る!!」
 「お、お待ちください!」
 「ヤダ!放して!お父さんとお母さんのところに帰る!!」

 お姫様ベッドから今まさに飛び降りようとするみゆを、必死で押しとどめるノエル。

 しかし、押さつけられて余計に怖くなったみゆは、ベッドの上で手足をバタバタ振り回してさらに激しく大暴れする。

 「おち、落ち着いてください女王様!ベッドから飛び降りるなど、お怪我の元です!」
 「ヤダー!帰るー!放してよ不審者!!誘拐犯!!人さらい!!」
 「えええ!?はなはだしい誤解でございます!このノエル、由緒正しい女王陛下付き侍従!け、決して怪しい者ではありません!!」

 真っ赤になって弁解するノエルだが、みゆはまったく聞いていない。

 2人はかみ合わない主張を大声で言いあっていたが、その騒ぎにしびれを切らした別の声が部屋いっぱいに響いた。

 「もう!何やってるのよ!?そんなに乱暴なことしたら、その子がますます怖がっちゃうよ!!」

 「はっ!し、しかし……!」
 「ガラちゃんがその子にお話しするから、ノエルは出て行って!!」
 「よろしいのですか……?」
 「うん!ガラちゃんと二人っきりにして!!」
 「かしこまりました」

 ノエルは謎の女の子の声に、渋々従った。みゆの両腕を押さえつけていた手を放す。

 そして、みゆに向かって深々と頭を下げると、後ろ手にドアを開け静かに部屋を退出して行った。
 ドアが閉まると、後には謎の声の主とみゆだけが残された。