海の女王は中学生~おしゃべりティアラと海底王国のひみつ~

 みゆが謁見の間に向かうと、部屋にはクレマンがやって来ていた。

 「よくいらっしゃいました、隊長さん」

 「昨日は失礼しました」

 クレマンは昨日とは打って変わって、すっきりとしたスーツ姿で一礼した。

 「昨日のお話を、一日考えました」

 クレマンはみゆの顔を見ながら、ゆっくりと話した。

 「部下たちを死なせてしまった私に何ができるのか。今までそればかり考えて生きてきました」

 クレマンはここまで話すとしばらく黙り込み、また続けた。

 「生きている私にできること。それは今を生きている人々を助けることだと、みゆさんのおかげで気がつきました」
 「それじゃあ……」
 「死んでいった部下たちに恥ずかしくないように、全力を尽くします」

 クレマンは深々と頭を下げ、みゆの依頼を引き受けてくれたのだった。


 みゆがクレマンと会っていた頃、アデラールは自分の家に戻っていた。

 5階建てラボの地下2階にある小部屋。

 タコ型お掃除ロボットがいる部屋に、アデラールは立っていた。

 「お帰りなさいませ、旦那様」
 「うん、ただいま。僕の留守中に変わったことはなかったかい?」

 大人の男性の声で出迎えた人工知能に、アデラールは尋ねた。

 「特に変わったことはございません。ただ、周辺地域の治安が一段と悪化しております。外出の際はご注意ください」
 「具体的には?」
 「怪人や戦闘兵などの、かつての帝国の残党が、敵国と手を結びこの地域に基地を建設しています」
 「それはマズいな。ますます、みゆが危険になる」

 アデラールはそういうと、部屋の中央にある卵型のカプセルに目をやった。

 「あのカプセルで僕を5年分、成長させることはできるかい?」
 「可能です。しかし、なぜ?」
 「みゆを助けたいんだ」

 アデラールは人工知能の問いに、迷わず答えた。

 「今の僕は、みゆより小さな男の子だ。こんなおチビさんじゃ、あの子に頼りにされないよ」
 「旦那様は、みゆという少女に頼られたいのですね?」
 「ち、違うよ!がんばってる彼女の役に立ちたいだけだよ!」

 アデラールは顔を真っ赤にして反論した。

 「わかりました。旦那様の健康診断をした後、作業にかかります」
 「どのくらいかかる?」
 「24時間以内に完了します」
 「わかった。頼んだよ」

 アデラールはうなずくとカプセルのふたを開けて中に入った。

 「僕が眠っている間、お掃除を頼むよ」

 お行儀よく、横1列に並んだ、4台のタコ型お掃除ロボットたちは、「おまかせおまかせ」と、手を振って応えた。


 「ドニを治安維持組織の訓練生としてきたえたいと思うのですが、よろしいですかな?」

 アデラールがカプセルに入った頃、お城ではクレマンがみゆに話していた。

 「そういえば、クレマンさんとドニは知り合いだったね」

 謁見の間にはみゆとクレマンの他に、ノエルに呼ばれたドニもいた。

 「みんなが平和に暮らせるお仕事なら、クレマンさんと一緒に働きたいです。それにいろんな機械や機器のことも教わりたいんです」
 「いいわね、ドニ。やる気満々だもの。クレマンさん、ドニの興味と特性を活かして少しづつでいいので、お仕事を教えてあげてくださいね」
 「わかりました」

 クレマンとドニは顔を見合わせ、うれしそうに笑った。

 「よかった、これでひと仕事終わった。ねぇノエル、これからガラちゃんと散歩に行きたいんだけど、行ってきていい?」

 「はい、ですがあまり城から遠くに行かれませんように」
 「うん、わかったよ」

 みゆはニッコリ笑うと早速支度をして、散歩に出かけた。