「さま……大丈夫……ですか……」
 「ううん……」
 「じょう……さま……目をあけて……」
 「はッ……!」

 みゆは誰かに呼ばれたような気がして、ようやく目を覚ました。いつの間にか眠っていたらしい。

 「ええっと、何で私ここにいるんだっけ……?」

 ぼんやりと天井を見上げる。

 「なんか変だな、何で海で天井が見えるの?」

 自分は柔らかいベッドの上に、仰向けに寝かされているらしい。
 その証拠に、小さな赤い花模様の布がみゆの視界いっぱいに広がっている。

 「天井に花模様の布?ここ、病院……?」

 ぼんやりしていた頭がはっきりしてくるにつれて、いろいろ不自然なことに気づき出す。

 「確か私、岩場でイソギンチャクに飲み込まれて、怖くて目をつぶって息を止めたら、何だかツルンと冷たい場所に落ちて行くみたいな感じがして……」
 「イソギンチャク?おお!やはりあなたは地上世界から我々を救いに来られた救世主!新たな女王様なのですね?ようこそ!お待ちしておりました!!」
 「ひゃああっ!?」

 みゆは寝ていたベッドから思わず、飛び起きてしまった。
 なぜなら、枕元で聞き覚えのない少年の声が、今度ははっきり聞こえたからだ。

 「だだだ、誰ですかあなたは!?」

 「これはご無礼をいたしました。わたくしは、ノエル・リスナールと申します。これよりは、侍従であるわたくしに何なりとお申し付けください」

 驚いたことに声の主は、金髪に青い瞳の、みゆより少し年下に見える少年だった。

 彼はベッドの下の床に片ひざを着き、みゆに礼儀正しくあいさつしてくれた。

 「じ、侍従?あの、ここはどこですか?お父さんとお母さんは?私、家族とおばあちゃんの家に遊びに来ていて、海岸で遭難したみたいなんです。ここ、本当に病院なんですか?」

 みゆはノエルに尋ねながら、キョロキョロと周囲を見回した。
 壁にはヨーロッパの王様や王妃様のような冠をかぶった人たちの肖像画が何枚も飾られている。
 部屋の中はヒンヤリとして涼しく、とても気持ちがいい。
 みゆが座っているベッドはやわらかくて、枕も触ってみるととてもふかふかだ。
 ベッドの四隅には木の柱が立っていて、花模様の幕を支えている。
 外国のお姫様が使う、天蓋付きベッドだ。

 「天井だと思ったのはベッドの屋根を下から見ていたんだね。こんな素敵な病院がおばあちゃんの家の近くにあったんだね」
 「女王様……まことにご無礼ながら、ここは病院ではございません」
 「え?」
 「ここはアスレイア王国。海の中の海底王国の城です」

 ノエルはニッコリ微笑むと、片ひざを着いたまま自慢げに胸を張った。