「緑色の瞳……?」

 ガラちゃんのうれしそうな声に、みゆは恐る恐るつぶっていた両目を開けた。

 すると彼女の目の前には、ブカブカの白衣姿の男の子が驚いた顔で立っていたのだ。

 「本当だ……。きれいな緑色の瞳……あなた、ひょっとして前に私と……」
 「ごめんなさい!」

 『私と会ったことはない?』と、みゆは男の子に尋ねようとした。

 しかし、男の子が大きな声であやまってしまったので、みゆの質問は途中でかき消されてしまった。

 「ぼく、戦争のせいで身寄りがなくてこの廃墟に勝手に住み着いていたんです。家の人はいないと思ってて……。本当にごめんなさい!」

 アデラールは、何とかこの場をごまかそうと、ぺこりと頭を下げた。

 「うそ!だって、あなたアデラールだもん!なんでガラちゃんにそんなうそつくの!?ひどいよう!!」

 だが、友達だったガラちゃんの目はごまかせない。

 ガラちゃんは喜びから一転、友達のアデラールからうそをつかれた驚きから、すっかり逆上してしまった。

 「ぼく、名前は……アベルといいます」

 「うさんくさい名前!今、とっさに考えついたでしょ!?」
 「待って、ガラちゃん……。この子は……たぶん、アデラールじゃない……と思う……」
 「みゆまで何いうのよ!?だって、この子はアデラールだも!」
 「ガラちゃん、よく聞いて……。アデラールは5年前はいくつだったの?」
 「うん?年のこと?確か、10才かな」
 「みゆは、5年前は8才で、今は13才。ねぇ、ガラちゃん。この子と私、どちらが年上に見える?」
 「みゆ……かな?」
 「アデラールが生きていれば今年で15才、みゆの世界では中学三年生くらいだね。でも、この子はそんなお兄さんには見えない。だから、アデラールや私が探している男の子とは別人なんだよ」
 「みゆ……」

 『そんなことないよ!絶対、アデラールのはずだよ』と、ガラちゃんは本当は叫びたかった。

 だけど、みゆがあまりにしょんぼりした声で悲しそうに話すので、ガラちゃんはなぜか胸の奥がきゅっと痛くなった。

 だから目の前の白衣の男の子をにらんだまま、それ以上は何も言わなかった。

 「あなた、ここに一人で暮らしているの?」
 「はい……」

 気を取り直したみゆは床から立ち上がると、男の子に尋ねてみた。

 「こんな所にいたら、食べ物もお風呂もないでしょ?ねぇ、よかったら私たちと一緒に来ない?ノエルに頼んでお城に住めるようにしてあげるから!」
 「え……?」

 アデラールは、戸惑った。

 これは罠か!?

 女王はまた、ぼくをだまそうとしているのか?

 だけど、本当にこの女の子は女王なのか?

 女王は大人だったのに、なぜ今は子どもの姿なんだろう?

 それに、ガラちゃんは彼女のことを、《みゆ》と呼んでいるけどそれはなぜなんだろう……?


 「一緒に……行きたくない……?」

 みゆの声に、考え事をしていたアデラールははっと気づく。

 目の前の、輝くティアラを頭に載せて金色の杖を持つこの少女は、確かに女王に間違いない。

 それなのに、この女の子は自分が知っている5年前の女王とは明らかに別人だ。

 一体、ぼくが眠っていた間に何が起こったのだろう?

 「行きます……一緒に……。ぼくもお城に連れていってください」
 「うん、そうしようね!」

 心配そうな顔をしていたみゆは、やっと安心できて笑顔になる。

 そしてニッコリ笑いながら、「さあ、行こう」と男の子に手を差し伸べる。

 アデラールは一瞬ためらったが、おずおずと、差し出されたみゆの手をにぎった。

 こうして小さなアデラールは、ぽかぽかと温かいみゆの手を握りしめながら、ブカブカの白衣のすそを引きずって廃墟を出ていった。