「べっくしょん!!」
 「うわっ……!?」
 「きゃあ!?な、なに?」

 だが危機一髪、その時ガラちゃんが部屋中に響き渡るような大きなくしゃみを炸裂させたのだった。

 突然の大音響に、思わず声を立ててしまったアデラールは、あわてて自分の口を左手で押さえた。

 そして右手の短剣を見つからないように白衣のポケットに素早く隠した。

 「びっくりしたよ!ガラちゃん急に!?何かが爆発したのかと思った!!」
 「だってみゆ、このお部屋、暖房がなくて寒いんだもん」
 「うん、何だか急に温度が下がったみたい。でも、ガラちゃんは宝石の中にいるのに外の温度がわかるの?」
 「うん、温度もにおいも風景もなんでもわかるよ。だからさっきから何だか背中がゾクゾクするの。後ろに幽霊がいるのかな…?」
 「やめてよ、ガラちゃん。幽霊なんてこの世にいないよ。いたとしても、恨んでいる人の所にしか出ないって、お母さんが言ってたもん」

 みゆの母は正しい。

 だが、正しいからこそ今回は問題なのだということを、今のみゆは知らない。

 「今のこの状況って、ホラー映画とかにありそうだもんね。廃墟の中に女の子が一人。誰もいないのに後ろから物音がして、振り向くと――――」
 「振り向くと……?」

 みゆは幽霊なんていないと思っていたので、笑いながら思い切りよく後ろを振り返った。

 だから、とんでもなく驚いたのだ。

 「ぎゃあー!?いた!し、し、白い幽霊!イヤー!!」
 「あれ?あの子……?」

 みゆは白衣姿のアデラールを見て恐怖のあまりパニック状態になる。

 腰を抜かして床に尻もちをついて、目をつぶって杖を両手でブンブン振り回している。

 一方、ガラちゃんは顔を引きつらせて後ずさりする男の子を、注意深くじぃっと見つめていた。

 「アデラール……あの子、アデラールだよ!緑色の瞳の……アデラールだよ!!やっぱり生きていたよ生きていたよ!ガラちゃんは、うれしいよ!アデラール!!」

 ガラちゃんの大きな歓声が、部屋の中いっぱいに、響き渡った。