「燃えただけじゃなくて、何だか建物の中が徹底的に壊されてるみたいだね」

 アデラールが目覚めたことなど全く知らないみゆは、ラボの最上階である5階まで昇ってきていた。

 「やっぱりこの火事は、女王様の差し金だよ。やり方がすごく残酷でしつこいもん。よっぽどアデラールの才能が怖かったのね」
 「私は女王の陰湿さの方が怖いよ、ガラちゃん」

 みゆはガラちゃんと話しながら、何かアデラールの行方を知る手がかりがないかと、焼け焦げた室内を見回す。
 建物の中は火事から5年も経っているというのに、どこもかしこも煙のにおいがした。
 この建物の中にずっといるだけで、口の中に煙の苦い味がしてくるみたいだ。

 「きっとこのお部屋が、アデラールの私室だね。ベッドもあるし。このお部屋には女王様も入ったことないはずよ」
 「アデラールは一人で暮らしていたの?」
 「うん、お母さんはアデラールを生んですぐに地上に帰ったって。お父さんの王様はアデラールを乳母さんに預けてめったに会いに来なくて。乳母さんは優しくて良い人だったけど10才になったら引き離されて、会えなくなったって、アデラールは悲しがっていたよ」

 ガラちゃんもティアラの中で、しょんぼりと話した。

 「何だかもう、大人が勝手気ままで、腹が立ってきた!!」
 「みゆ?」
 「何でみんな大人のくせに、ちゃんとしないのよ!?大人は体も大きくて頭もよくて子供より物知りなくせに!アデラールが私が探している男の子かどうかはわからないけど、もし違っていても私絶対、アデラールを助ける!大丈夫!きっとどこかで無事でいるよ!だってイソギンチャクまで作っちゃうほど賢い男の子なんだもの。陰険女王なんかに負けるわけないよ!アデラールを見つけたら、私とアデラールとで必ずガラちゃんを安全にティアラの宝石の中から出す方法を探すからね!」

 怒り狂ったみゆは右手で杖をにぎりしめ、左手でこぶしを握ると勢いよく天井につき上げた。

 「うん!ありがとうみゆ!ガラちゃんも出られる日まであきらめないもん!!」
 「そうだよ、何事もあきらめちゃダメだよ!だから、この部屋ももう少していねいに見て回ろうよ!どんなささいな手がかりも見逃しちゃダメよ」
 「うん、わかった。ガラちゃんに任せて!」

 ガラちゃんは勢い込んで返事をすると、宝石の中から鋭い視線を室内に走らせた。

 「これがベッドだね。寝台の部分が焼け残っているもの。待って、だとしたらこの辺に……」

 みゆは寝台の頭の辺りを、杖の先でチョンチョンとつついてみた。

 すると、カチンと杖の先に、何か固い物が当たった。

 「やっぱりあった!あれ?これって……」

 みゆはしゃがみ込むと、左手で真っ黒に燃え残った何かを拾い上げた。

 だから、みゆは気づいていない。

 足音をしのばせてみゆの背後に近づいたアデラールが、短剣を振り上げたことを――――。