半魚人は人のように直立して2本足で走ってくる。

 全身は真っ黒な鱗に覆われ、外の光に照らされて、てらてらと光っている。

 みゆが真っ青になって見つめていると、おじいさんが走りながら大声で叫んだ。

 「に、逃げなさい!そこの人!半魚人じゃ!!」
 「おじいちゃん!危ない!」

 おじいさんの叫び声と、後ろから男の子がおじいさんを両手でつき飛ばしたのは、ほぼ同時だった。

 ビューン!

 倒れ込んだおじいさんの頭上を、何かが回転しながら目にも止まらぬ速さで通過していった。

 「危ない!あれ、ブーメランよ!」

 ガラちゃんが怒ってそう言うと、ブーメランは半魚人の手に戻っていく。

 「ガラちゃん、半魚人の弱点は何?」
 「え?えっと、半魚人は水棲だから、乾燥や熱、火かな?」
 「火ね!?わかった!」

 みゆはガラちゃんの返事を聞くや、素早く高いヒールの靴を脱ぐ。

 そして走り出すと、右手で巨人の杖をつき出す。

 「ダメよ!みゆ!杖から魔法を出したら、あの2人に当たるよ!」
 「わかってる!2人とも、そのままふせて!」

 ガラちゃんの忠告にみゆは叫ぶ。

 道にうつぶせに転んだおじいさんが上げかけた頭を、男の子はあわてて両手で押さえつけると、自分も道にうつぶせになる。

 「まっすぐ火を吹け!巨人の杖!!」

 みゆは金色の杖を半魚人に向けると、はめ込まれたルビーが真っ赤に輝いた。

 グオオオー!!

 ルビーの色と同じ真っ赤な炎が、杖の先から放たれる。

 その炎は道に伏せたおじいさんと男の子の頭上を通過し、まっすぐに半魚人に向かっていった。

 「うわわ!なんだなんだ!?あちち!!」

 まともに正面から炎を浴びた半魚人は、「覚えてろよ!」と、叫び声を上げながら大あわてで元来た道を、一目散で逃げていった。