「はまった!イソギンチャクに、はまったあああーーー!!」
 
 阿久津みゆは、岩だらけの海岸で絶叫した。中学一年生にしてはかなり小柄なみゆは、大人の腕でひと抱えもある大きなイソギンチャクに、うっかり腰まではまったてしまったのだ。

 「お母さん!お父さん!助けてえ!!」

 お母さんは少し離れた浜辺で貝を拾っていた。お父さんも私の場所から少しだけ上の方の岩場で釣りをしていた。

 「大丈夫、きっと助けに来てくれる!あれ?またはまった!?」

 みゆの体重がイソギンチャクにかかり、するっと10㎝くらい彼女の体が沈んだ。
 短パンとビーチサンダルの素足だったが不思議とチクチクしたり、痛みはない。むしろ夏の暑さの中ではヒンヤリして気持ちいい。

 「おばあちゃんがイソギンチャクや海の生き物には毒があるものがいるから、むやみやたらに触るなって言ってたもんなあ」

 みゆは巨大イソギンチャクに胸まではまりながら、大いに反省していた。
 両親とおばあちゃんの家の近くの海岸にやって来て、一人で岩場を探検していた。
 すると、大きな岩と岩の間に不思議なイソギンチャクを見つけた。
 潮だまりに青い花びらのような触手をユラユラ動かし、全体が金色にキラキラ輝いていた。

 「わあっ!きれい」

 みゆはもっと近くでイソギンチャクを見たかった。
 慎重にゴツゴツした岩場を上り、潮だまりに顔を近づけたその時、サンダルが岩場の海草で滑り、そのまま足からイソギンチャクにはまってしまったのだ。

 みゆは夏休みに両親とともに福岡のおばあちゃんの家に遊びに来た。
 コンクリートに囲まれた狭いマンションから、山あり海あり自然がいっぱいのおばあちゃんの家に行くことは、みゆだけでなく両親もとても楽しみにしていた。

 しかも、みゆには両親とおばあちゃんには内緒の秘密の目的があったのだ。

 「あの男の子に会いたいなあ……。あの日、一人ぼっちで泣いていた、緑色の瞳のあの子に……」


 すぽーん!!


 「ひゃあ……!?」

 みゆがいい加減、助けを呼び疲れて一休みしていたその時、いきなりイソギンチャクがみゆをすっぽり飲み込んでしまったのだった。