「最悪な口説き文句だなぁ」
「一生懸命考えたんですけどね」
「きみにとって推しさんは最高。私はその次?」
「ご想像におまかせします」
彼がほほ笑む。照れくささを隠そうとしたほんわかとした笑み。軍手をはずしてていねいにボトムのポケットに入れ、
代わりに黒いスマートフォンを取り出す。
(貼ってあるステッカーの少女は確かに私に似ている)
太陽がかたむきはじめた。8月になって暦は秋になり、ちょっとだけ涼しさを帯びた風は雨のにおいを運んでくる。南の空は曇天模様。
南はグラウンドの方角だ。相変わらず活気ある声が聞こえてくる。
水を得た土と植物の青く澄んだにおい。これから元気になりそうな植物のにおい。(これから元気になれそうな私)
私は、ひょこ、と彼のスマートフォンの画面を見てみる。メイン画面も推しさんなのかな、なんて。
個人情報に興味があるわけじゃないけれど。
「え、誰その女」
「ぎえ」
私の指摘に彼が低い悲鳴を発してあわててスマートフォンをかくす。
「なんだなんだ。彼女いるんじゃない。しかも推しさんそっくりの」
「ち、ちがいます!!」
(しょ、ショックなんて受けてないんだからね)
彼が背にかくしたスマートフォンをうばおうとしたら、自分から彼の胸に突っ込んでしまった。
(あれ? なんだかめっちゃ良いにおいする)
「僕、ですよ」
「一生懸命考えたんですけどね」
「きみにとって推しさんは最高。私はその次?」
「ご想像におまかせします」
彼がほほ笑む。照れくささを隠そうとしたほんわかとした笑み。軍手をはずしてていねいにボトムのポケットに入れ、
代わりに黒いスマートフォンを取り出す。
(貼ってあるステッカーの少女は確かに私に似ている)
太陽がかたむきはじめた。8月になって暦は秋になり、ちょっとだけ涼しさを帯びた風は雨のにおいを運んでくる。南の空は曇天模様。
南はグラウンドの方角だ。相変わらず活気ある声が聞こえてくる。
水を得た土と植物の青く澄んだにおい。これから元気になりそうな植物のにおい。(これから元気になれそうな私)
私は、ひょこ、と彼のスマートフォンの画面を見てみる。メイン画面も推しさんなのかな、なんて。
個人情報に興味があるわけじゃないけれど。
「え、誰その女」
「ぎえ」
私の指摘に彼が低い悲鳴を発してあわててスマートフォンをかくす。
「なんだなんだ。彼女いるんじゃない。しかも推しさんそっくりの」
「ち、ちがいます!!」
(しょ、ショックなんて受けてないんだからね)
彼が背にかくしたスマートフォンをうばおうとしたら、自分から彼の胸に突っ込んでしまった。
(あれ? なんだかめっちゃ良いにおいする)
「僕、ですよ」



