何と言えば良いのかわからなかった。言葉通りに取れば、取れば。

彼はメガネをはずし、ほんの少し目元をぬぐった。汗だと思いたい、けれど。

「何も言わないんですね」
オタクくんは再び花壇に向き直った。何かを吹っ切り、突き放したような声色だった。
「私に何が言えるの? こんなにうっすい人生を送ってるのに」
「いいえ。表面上の飾った言葉を言わないあなたは聡明です」
そうめい。なんて上滑りする言葉なんだ。白い粒の栄養剤が水を得て茶色になった土の上でやたら浮いている。色が。
「僕はあなたがとても憎い」

心臓の真ん中を突きさすような一言だった。確実に仕留めるための。プロの一手。

「あなたはうちの推しに良く似ています。真っ黒で大きな目も、まつ毛が長いところも、タレ目も鼻筋が通っているところも、
唇がたっぷりとしているところも、綺麗な長い黒髪をしているところも、背が低くてきゃしゃなところも、
僕は本当に美しいと思っています」
(な)
「うちの推しは自分をとても大事にしています。健康でいなければファンを元気づけられないと。
そして僕たちファンにも伝えてくれます。いつも元気でいてほしいと。身体が元気でなかったとしても、精神は」
「……」
「わかっています。僕は今、あなたにエゴを押しつけている。あなたはうちの推しではない。
でも、
僕があなたの元気を望むのではいけませんか」