オタクくんのふんわりした指示のもと、私は花の終わったバラをパチン、と切る。チョッキンじゃなかったな。音が。
その間にオタクくんは妙な悲鳴を上げながらツキヌキニントウのお世話をしている。「誰かがここに捨てたヤマイモのツルに巻きつかれてるー!!」と叫びながら。
(誰が捨てるんだよヤマイモをここに)

「オタクくんさぁ」
「それ僕の名前じゃないです」
「きみさぁ、アニメとか漫画とかそう言うの興味ないの?」
作業をしながら私は彼に聞いてみる。こちらを見た彼の目が今日の太陽よりらんらんと輝きはじめた。
(あっ、私やらかした)

「僕はvtuberのファンです!!」
「え? え? vtuber?」
「僕の推し様は超有名なvtuberでして。vtuber界では前人未踏の有名動画サイト登録者数400万人をほこっていましてね。
綺麗な高音で話すんです。通称は冬のうたひ、」
「もう良い」
光速詠唱をはじめようとしたオタクくんを私はやんわりと止める。彼が泣きそうな顔になった。(可愛い)

「あなたはどうなんですか。彼氏と」
「飽きちゃった」

私が彼の顔を見ずにそう言うと、彼が小さくため息をつくのが聞こえた。
「あなたはいつもそうですね。そんな軽い理由で恋人と別れる」
静かな声だったが、非難の音をたっぷりと含んでいた。