3月14日。
放課後の図書室。
咲良は机の上で、コンパスをぐるぐる回していた。
「円って、なんか落ち着くな〜。ぐるっとつながってる感じ、安心する」
「今日は、円の日でもあるしね」
「え?今日って何かの日なん?」
「3月14日。3.14。円周率、“π”の日だよ」
「……うわ、そういう意味か!さすが数学オタク!笑」
「それと……君の誕生日でもある」
咲良の動きが、ぴたりと止まる。
「えっ……覚えてたの?」
「忘れるわけないよ。πの日って言われて、“君”が一番に浮かんだ」
咲良の耳が、一気に真っ赤になる。
「うそ……うれしい……
でもさ、私、誕生日とかちょっと苦手なんだよね」
「どうして?」
「なんか、自分が“生まれた意味”とか、考えちゃうから。
私みたいに何もできない人間が、生きてていいのかなって」
少しの沈黙。
でもそのあと、瑛人は静かに言った。
「円周率って、無限に続く数だよ。
どこまでいっても終わらない。完璧じゃない。
でも、ちゃんと“円”っていう形を作ってくれる」
「……うん」
「君もそうだよ。完璧じゃなくていい。
でも、君がいることで、俺の中の“形”がちゃんとできる気がする」
咲良の目が、潤んだ。
「……なにそれ、ズルいってば……」
「誕生日おめでとう、咲良」
そう言って、瑛人はひと粒のキャンディを机に置いた。
「πって甘いんだね」
「それ、計算ミス」
ふたりで笑った教室には、
ちゃんと“あたたかい答え”が、ひとつだけ残っていた。



