『ミシュリーヌお姉様、もういいから無駄なことをしないでっ!』


クロエはミシュリーヌを見ていると苛々して仕方なかった。
こんなことをしても何も変わらない。
しかしミシュリーヌはキョトンとして首を傾げた。


『どうして? だってクロエは悪くないじゃない』

『言っても無駄なの。全部……全部っ、無駄なのよ!』


クロエはドレスの裾を握る。
自分が悪くないのに責められ続ける苦痛。
本当は悔しくて苦しくて仕方ない。けれどこれは誰にも理解されることはないのだ。

しかしミシュリーヌはハンカチでジュースを拭いてから「お母様に怒られちゃうわね」と平然と言っていた。
それからクロエの手を握る。少しベタついた手のひら。
クロエを見つめるブラウンの瞳は何かも見透かしているように見えた。


『クロエ、あなたは悪くない』

『──ッ!』

『あなたは堂々としていればいいの。わたしがクロエを守ってあげる。だから大丈夫』


ミシュリーヌがそう言って笑った瞬間、次々と涙が溢れ出た。
今まで我慢しといたものがすべて流れていくようだ。


『わたしだけはクロエの味方だからね』


ミシュリーヌはクロエの泣き顔を隠すように抱きしめてくれた。
その言葉がどれだけクロエを救ったのか、ミシュリーヌは知らないだろう。