推し活スポンサー公爵との期限付き婚約生活〜溺愛されてるようですが、すれ違っていて気付きません〜

「この糸はなかなか手に入らないんだ。どうしたらいいかしら……」

「それは高級という意味で? それとも珍しいものなのかしら?」

「まぁね……セル侯爵家の特産品なんだけど、この色はその値段で出せないと断られた」

「…………そう」

「僕たちをママゴトだと馬鹿にしての嫌がらせだよ。いつものことだけどね」


まだミシュリーヌもジョゼフが商会の代表ということで、貴族のお遊びだと思われることが大半だ。
女性が商会の中心にいるというのもまだまだ少ないため、こういうことは日常茶飯だ。
商人たちも飛ぶ鳥を落とす勢いで稼ぎまくるオシカツ商会が面白くないのだろう。
嫌がらせも多々あり、ここまで登り詰めるのに随分と苦労した。

第二騎士団に推しがいる令嬢たちから徐々に人脈を作っていき、少しずつ少しずつ前に進んできたのだ。
クロエが積極的に手伝ってくれた時は彼女の美貌でゴリ押しできる場合もあったのだ。

こうして使いたいものに貴族が関わっているとなると、爵位が上になればなるほどに、こちらの思い通りにならないことが多い。
今回もそうなる可能性が高いだろう。


「この鮮やかな糸はセル侯爵領でしか手に入らない。困ったな」

「それに刺繍糸も大量に使うし、色もたくさん欲しい。どちらにせよ諦めるしかないわ」

「そうだね……爵位ばかりはどうしようもないから仕方ないね。これと似た糸を探してみるよ」


ジョゼフの声色が暗くなってしまう。
ミシュリーヌも今回はこの鮮やかな色味の糸を諦めるしかないかと思っていた時だった。

(この世界は爵位が重要…………爵位、ということは?)