推し活スポンサー公爵との期限付き婚約生活〜溺愛されてるようですが、すれ違っていて気付きません〜


* * *


ミシュリーヌは推し活が終わり、ジョゼフと共にティティナ伯爵邸へと向かう。
クロエは珍しく用があるからとシューマノン子爵邸に先に帰っていく。
彼女と離れるのは久しぶりすぎて違和感を覚えた。
それほどクロエといつも一緒にいたのだ。

今日はジョゼフと新商品についての打ち合わせだった。
訓練場からティティナ伯爵邸まで興奮してミシュリーヌはモアメッドへの気持ちが止まらない。


「今日のモアメッド様は一段と輝いていたわね! ぎりぎり間に合ってよかったわ」

「なぁ、ミシュリーヌ……ちゃんと説明してくれよ」

「さすがの剣捌きよね。魔法にかかったみたいにビリビリと痺れちゃったわ! はぁ……今日なんて寝癖があったのよ。寝癖っ! くぅー……最高に可愛かった! 顔面国宝すぎて推せるわー」

「…………あのさ」


ジョゼフが乱暴に紅茶のカップを置いた。
ソーサーが擦れて音を立てたため、ミシュリーヌは視線を空からジョゼフへと移す。


「ジョゼフ、変な顔をしてどうしたの?」

「君こそどうしていつもと何も変わらない態度なんだよ」

「ふふっ、それはね……」

「それは?」

「な、なんでもないわ」


ミシュリーヌはオレリアンとの約束が口から出そうになり、思わず口を塞ぐ。

(この話はジョゼフにも内緒にしないといけないわ。レダー公爵の名誉のためにも!)

ミシュリーヌは何度か頷いた後に何事もなかったように話を逸らす。


「それよりも新商品のサンプルのことだけど……」

「そうじゃないでしょう?」

「……むぅ」