『わたしがやりたいんです。皆さんに気持ちよく過ごしてほしいから……』
『……は?』
『こんな機会を与えてくださった神様に感謝しているのです! わたしはここにいられるだけで幸せですから』
はにかむように笑ったミシュリーヌを見たまま暫く動けなかった。
何を言っているのか、正直よくわからなかったがミシュリーヌが美しいと思えた。
(彼女は……なんて心が綺麗な子なのだろうか)
何も言わなくなったオレリアンに不思議そうな顔をして見ていたが、ぺこりと頭を下げて背中を向けた。
ミシュリーヌはオレリアンに特別な視線を向けることなく平然と去っていた。
そのことに衝撃を受けていた。
髪飾りを受け取った時に確かに目は合ったはずなのだ。
自分のことを買い被っているわけではないが、令嬢たちの反応がいつの間にか当たり前だと思っていた。
だからこそミシュリーヌの反応に初めて普通というものを感じた。
それが新鮮だと思ったのだ。
ここから数年経ってもミシュリーヌに話しかけることはできなかったが『また話してみたい』と思うのは初めての経験だった。
そのままミシュリーヌと関わることがないままここまで来てしまった。
お酒の勢いなのか、アントニオに『気になる令嬢』と言われたことでミシュリーヌの名前を口に出してしまったのだろう。
回想を終えたオレリアンは眉間に皺を寄せた。
アントニオを止めるために酒を飲んだつもりが、自分の甘い考えでこうなってしまった。
酔った勢いで申し込んだ婚約。
ミシュリーヌはこんな不誠実なオレリアンを軽蔑して、婚約を嫌がるに違いない。



