数日後、珍しく課長が皆を飲みに誘った。
居酒屋で楽しく飲んだ後は、帰宅の途に
就く者、二次会へと行く者とそれぞれが
バラバラになっていった。
 俺は、次の日のことを考え一人、
繁華街を駅に向かって歩きだした。
 すると、突然背後から俺は上着の
袖口を掴まれ立ち止まった。
 驚いて後ろを振り向くとそこには、
息を切らしながら俺を見上げる彼女の姿。
 「上原……さん? どうしたの?
皆と二次会に行くんじゃなかったの?」
 と声をかけた。
ニコッと笑う何処かあどけない彼女の
仕草に俺は思わず、
 「じゃあ、少しだけ飲む?」
 と彼女に向かって微笑んだ。

 どのくらいの時間が経ったのだろう?
思わず話が弾んだ俺等は、気がついた時には
時計の針はとっくに午前零時を回っていた。
 「あ、ごめん。ちょっとのつもりが
遅くなっちゃったね」
 早々に支払いを済ませ外に出ると、
 「あ~、今夜は楽しかったです」
 夜の闇に灯る街灯の下で彼女が微笑んだ。
 「本当……上原さんって話上手に聞き上手
だから……思わず時間が経つのを
忘れちゃったよ」
 俺は頭を掻きながら彼女に話しかけた。
 「そんなことないですよぉ……あっ……」
 「あ、危ない」
 つまづいた彼女が前のめりになった瞬間、
俺は思わず彼女の身体を両手で抱き止めた。
 彼女の柔らかい身体の感触が俺の掌から
伝わってくる……。

 無言で見つめ合った俺等は、
そのまま静かに唇を重ねた。

 そして、夜の闇に灯る街灯の下で……
俺は彼女を抱きしめた。

 そう、彼女を最初に見た時から
わかっていた。
俺は、彼女に心惹かれるかもしれない……と。

 暗闇の中で俺に抱きしめられた彼女からは
甘い匂いがした。