2023年 初夏……
「初めまして、上原美羽です。
今日からお世話になります。
 皆さん、どうぞよろしくお願いします」
 俺が勤める課に配属になった彼女。
黒髪のショートカットで爽やかな
笑顔がとても印象深かった。
 
 そう……
それが、俺と彼女……
上原美羽との出会いだった。
 「じゃあ、彼女の教育係は、
香月君にお願いしようかな」
 杉尾課長が俺にそう告げると、
彼女が俺を探すようにきょろきょろと
室内を見渡した。
 「あ、ここです……」
 俺は、少し躊躇しながら手をあげた。
 
 彼女は俺を見つけ、とことこと
俺が座る席まで歩いて来ると、
 「あ、上原です……どうぞよろしく
お願いします」とペコっと頭をさげた。
 俺は椅子に座ったまま彼女を見上げると、
 「香月……香月良太です」と頭をさげた。
 
 「香月良太……さん」
 その日、彼女が呟いた声と彼女から
微かに漂う清らかな、清々しい香りが
妙に耳と鼻に残っていたのを覚えている。