その後、上原さんは以前より希望していた
海外支社への配属が決まり、俺の前から
姿を消すとその数ヶ月後、突然会社を
退職したと風の噂で知った。
彼女は、今どこで何をしてるんだろう……
2024年6月、俺は千明が三十歳を迎える
一ケ月前に滑り込むように彼女との結婚を
決めた。
彼女とブライダルの打ち合わせの日、
駅前の人混みを歩く俺は彼女との
待ち合わせの場所に向かっていた。
すると……
人混みの中から漂うほのかな
『金木犀』の香り、
驚きと懐かしさが込み上げ、俺は思わず
匂いのする方に引き寄せられるように
足を進めた。
しかし、頬を撫でるように吹き抜けた風が、
『金木犀』の香りをかき消すと、
すぐに『薔薇』の香りを運んできた。
振り向くと、そこには優しく
微笑む千明の姿。
「良太、どうしたの?」と優しく呟く千明。
「いや、別に……何でもないよ。行こうか」
「うん……」
俺は動揺をすぐに消し去ると、
彼女と選んだ道を歩いて行く。
二人の女性の間で揺れ動いた俺の心……
彼女等が放った香りはこれからも
俺の『過去と現実』の狭間で
漂い続けるのかもしれない……。
~ 馥郁《ふくいく》の狭間で 完 ~
海外支社への配属が決まり、俺の前から
姿を消すとその数ヶ月後、突然会社を
退職したと風の噂で知った。
彼女は、今どこで何をしてるんだろう……
2024年6月、俺は千明が三十歳を迎える
一ケ月前に滑り込むように彼女との結婚を
決めた。
彼女とブライダルの打ち合わせの日、
駅前の人混みを歩く俺は彼女との
待ち合わせの場所に向かっていた。
すると……
人混みの中から漂うほのかな
『金木犀』の香り、
驚きと懐かしさが込み上げ、俺は思わず
匂いのする方に引き寄せられるように
足を進めた。
しかし、頬を撫でるように吹き抜けた風が、
『金木犀』の香りをかき消すと、
すぐに『薔薇』の香りを運んできた。
振り向くと、そこには優しく
微笑む千明の姿。
「良太、どうしたの?」と優しく呟く千明。
「いや、別に……何でもないよ。行こうか」
「うん……」
俺は動揺をすぐに消し去ると、
彼女と選んだ道を歩いて行く。
二人の女性の間で揺れ動いた俺の心……
彼女等が放った香りはこれからも
俺の『過去と現実』の狭間で
漂い続けるのかもしれない……。
~ 馥郁《ふくいく》の狭間で 完 ~



