「おはよう……彩」
 昨夜の猛吹雪とは異なり
青空の下、真っ白い雪上に
緑色の葉とひときわ彩りを放つ真っ赤な椿の花。
 そしてその椿の花々に囲まれた史郎の立姿に
彩は心を奪われていくのがわかった。
 「史郎……さん」呟く彩。
 史郎は彩の前に歩み寄ると彼女の手を握り、
 「綺麗な椿だろ? 
 これは寒椿っていうんだよ」と彩に言った。
 「綺麗な赤色……
 史郎さんの唇の色と同じ。
 寒椿……」
 「僕は昔から病弱だったから静養するたびに
僕の両親が一本づつ植えてくれたんだよ。
 いつしか庭一面に広がったんだけど」
 「素敵なご両親ですね」
 「そうだね。僕はこの寒椿の中にいると、
両親の愛情を感じるんだ。
 まるで包み込まれているように。
 でも、今僕は独りぼっちなんだ。
だからとっても寂しかった。
 昨夜君がここに来てくれて本当に
嬉しかったんだ。
さぁ彩、時間だ。そろそろ行こうか。
 この寒椿に包まれながら僕と一緒に」
 と彼女を見つめた。

 フワッと昨日と同じ感覚になった彩、
その時だった。
 「娘を……彩を連れて行くな」
 息を切らした父親が史郎に向かって
叫んだ。
 「え? お父さん?」
 彩の手を握る史郎を振り払うと
父は彩を連れて歩き出した。
 「お父さん、お父さんどうしたの?」
 無言で歩く父親。
 彩が中庭の方を振り返ると、寒椿の花々に囲まれ
にこやかに笑い彼女に手を振る史郎の姿が消えた。