カチカチカチ……ボーン。
 一階にある柱時計から十一時を告げる音が
フロアに響き渡った。
 彩は、隣のベッドで眠る父を見ながら
彼に気づかれないようにそっと部屋の
ドアを開け廊下に出るとそのまま
階段を下りて行った。

 真っ暗闇のフロアに、オレンジ色の
暖炉の炎がゆらゆらと揺らめくと、
その前のソファーに座る人物の影を
壁に映し出した。
 彩が暖炉に近づくと、史郎がゆっくりと
振り返り微笑んだ。
 「来てくれたんだ。ありがとう」
 暖炉の炎を背に、澄んだ瞳の史郎の
顔はまるでこの世の人物とは思えない程
神秘的に見えた。
 「約束したから……」
 史郎の瞳に引き込まれそうになりながら
彼の隣に座った彩。
 すると、史郎は彩の髪の毛を優しく
撫でながら囁いた。
 「彩……僕は寂しがり屋さんなんだ」
 「さみしがり屋? 史郎さんが?」
 「うん……だからこうして君が
来てくれるのを待ってたんだ」
 「私を待って……た?」
 「そうだよ……君がこの館に来てくれた
のを知った時、とても嬉しかった」
 史郎が彩を見つめると、彩はフワッと
した空気に包まれた。
 彼の両手がそっと彩の身体を包み込むと、
そのまま彼女を優しく抱きしめた。
 「ごめん……嫌だよね……会ったすぐの男に
こんなことされるなんて」
 優しく呟く史郎に、目を閉じたまま彩は
 「そんなことない……私、なんか不思議な
気分なんです。史郎さんに抱きしめられて
物凄く幸せな気分」と呟いた。
 「ありがとう。
 彩……正直な気持ちを言える君は
本当に素直なんだな」
 「男の人に抱きしめられるのが
こんなに心地よいなんて知らなかった」
 「ふふふ、君は確か高校生だったな」
 「はい……十七歳です」
 「じゃあ、君の未来はこれからだ」
 「どんな未来になるのか心配ですけど」
 「そうだ、彩明日の朝、庭を散歩しないか?
 君を連れて行く前に見せたいものがあるんだ。
 いいかな?」
 「わかりました。部屋から見えていた
庭のことですね? 明日の朝には
雪も止むでしょうから……」
 彩が史郎を見上げ微笑んだ。
 彼女は史郎の身体から離れると、
小指を差し出した。
 「約束ですね……」
 差し出された彩の小指に史郎の
小指が絡まった。
 「え……冷たい……指」
 彩がそう感じた瞬間、彼女がパチッと
目を覚ました。
 「夢……?」
 彩は起き上がり窓の外に視線を
送ると、昨夜の猛吹雪とは一転、
柔らかい朝陽が部屋の中に差し込んでいた。