「いただきます~」
 ゆらゆらと炎が揺らめく前で
始まった晩餐。
 テーブルの上には豪華な
食事が並べられ、突然の宿泊客にも
丁寧な、そして心からのおもてなしを
うける父親と彩。
 「お父さん、美味しいねぇ~」
 「そうだな……旨いな」
 「お母さんとお兄ちゃんが聞いたら
うるさいだろうね」彩が笑った。
 「お口に合いましたでしょうか?」
 エプロン姿のオーナーが声をかけてきた。
 「もしかして、この料理オーナーさんが?」
 彩が尋ねると、オーナーは微笑みながら
 「私は調理師免許も取得しておりまして、
実はオーナーシェフなのですよ」と呟いた。
 「わぁ~凄いね……」驚く彩。
 「とても素敵な館にこの料理、
客室が五部屋だけなんてもったいないですね」
 父が料理を食べながら呟いた。
 「あ、そうそうオーナーさん、今夜は
私達親子の他にあと一人この館にいるんですね」
 彩が尋ねると父親が、
 「そうなんですか……」
 とオーナーに尋ねた。
 オーナーは二人に向かって、
 「ええ、二階の一番奥の部屋に
長期滞在されている方がおります。
 あとは、個人情報なので。
 さあ、それより、本日のデザートは
私の力作です」
 と微笑んだ。
 「力作だって……楽しみだね~お父さん」
 彩が嬉しそうに話しかけた。
 
 食事が進むにつれ、グラスに注がれた
ワインを飲み上機嫌になった父が、
リュックからカメラを取り出すと、
カシャカシャカシャ……とシャッターを
切り出した。
 「ほぅ……御父上は写真家さんでしたか」
 関心するオーナーに彩は、
 「すみません……普段は仕事以外の場所で
仕事用のカメラで写真を撮らないんですが、
この館本当に素敵で……気に入ったんだと
思います。
 それにお父さん、今物凄く気分がいいんだと
思います。ほら、あの嬉しそうな顔」
 と父親の顔を見ながら呟いた。
 「そうですか……それはよかった」
 オーナーが静かに微笑んだ。

 そして、ひとしきり写真を撮りまくった
父は満足そうに写真をチェックすると
昼間の疲れかデザートが済むと早々に
部屋に戻り床についたのだった。