ザク、ザク、ザク……と小高い山の
草原に積もった新雪の上に続く二つの足跡。
 昨夜から降った雪は、瞬く間にあたり一面を
銀世界へと変えた。
 「はぁ……寒い。今朝は一段と冷える。
 でも、お父さんいい写真が撮れてよかったね」
 冬休み、写真家の父の仕事に帯同した
高校二年生の彩は前方を歩く父の後を一歩一歩
新雪を踏みしめて歩く。
 「おい、少し急ぐぞ……天気が変わる」
 晴れた空を見上げた父親が少しだけ
変わった風向きにそう告げた。
 「え? こんなに晴れてる朝なのに?」
 彩が父に尋ねると、
 「風向きも変わった……もしかしたら
荒れるかもしれん。早く帰らねば母さんや
兄ちゃんたちが心配する」父が彩に告げた。
 「わかったよ……」
彩は背負っていたリュックの
肩ひもを両手でギュッと握り直すと、
前を向いて歩き出した。
 
 ザク、ザク……ザク、ザク。
新雪の上に続く足跡……、
そして、二人は父の四輪駆動車が
停めてある開けた場所に到着した。

 バタン、バタン……。
 車に乗り込んだ二人、
父が車のKEYボタンを押すと、
キュルキュルキュル……とエンジンがかかり、
力強くアクセルを踏むと車はゆっくりと動き出した。

車が走り出すと、父の助言通り
今まで晴れていた空が一気に灰色の空に
変わり雪が舞い出した。
 その雪は徐々に激しさを増すと
高速で動くワイパーなど物ともせず
フロントガラスにも雪が
どんどん降り積もっていった。
 「くそォ……ライトをアップにしても
雪が反射して前が全然見えない……」
 雪による光の乱反射で辺り一面、
白一色となり視界を遮られたことに
苛立つ父に彩は、
 「お父さん大丈夫?」と声をかけた。

 雪が激しく舞う雪道を走り抜ける
一台の四輪駆動車。

 「彩……今何時だ?」父が尋ねると、
 「えっとぉ、十一時半……」
 「そうかぁ……もうそんな時間か」
 父が口をつぐんだ。
 そんな父の横顔を見ながら彩は、
フロントガラスに体当たりしてくる
雪の塊を見ると、
 「これでお昼前って信じられないね。
 まるで夕方みたい……」と呟いた。
 「そうだな……」
 口数が少なくなった父はアクセルを踏み込んだ。

 降りしきる雪の中、彩を乗せた車は
雪道をどんどん進んで行った。