彼は悪魔

 山崎ケンと付き合うつもりは、まったくなかった。

 ケンは同じ大学のサークルの先輩だったが、留年を繰り返していた。

 私は文芸サークルの同じ1回生のAくんと、3年近く交際して別れた直後だった。

 原因はAくんの卒業後の進路。

 彼が目指していた職業には、単位を取ってもこのままでは就けない。それなら、大学を辞めて他の進路を進むべきか?

 Aくんは私には何の相談もなく、大学を辞めてしまった。

 彼からの別れの言葉は、「自分の将来で頭がいっぱいだから、晴美さんのことまで考えられない」というものだった。

 私は意味がわからなかった。

 将来ってなに?

 Aくんの将来には私は含まれていないの?

 今すぐ結婚までは考えてなかった。

 私も彼もまだ18歳だもの。

 法律では結婚できる年齢だけれども、本気で考えたことはない。

 けれど、このまま順調に交際が進んで大学卒業後、お互いに就職が決まれば自然にそういう流れになるかな、と漠然と考えていた。

 なのに、結婚を意識していたのは私だけだったのだ。

 私の心は奈落に突き落とされた。

 まさか自分から熱心にアプローチしてきたAくんから、突然別れを切り出されるとは夢にも思ってもいなかったからだ。

 3回生になると講義に出るのは週1、2回となる。

 私はほとんどの日を独り暮らしのマンションに閉じこもりなるべく人に会わなかった。

 サークルも講義を受ける日だけ、顔を出す程度。

 Aくんは当然サークルも辞めてしまったから、サークルメンバー全員は口にこそ出さないが私と彼が別れたことは知っていた。

 そんなある日。