「オレは、仕事を頑張っているオンモードの椿さんも、気の抜けたオフモードの椿さんも、全部丸ごと大好き」

 真山さんの気持ちが、触れられているところ全部から伝わってくるようだった。それに比例して、私の顔はもっと赤みを増す。俯くことが叶わないから、空いている方の手でせめてもと口元を隠す。

 「屋上での時間を失くすのが怖くてなかなか言えなかった。ヘタレだなぁ、オレ」

 自嘲した彼が、そのまま真っ直ぐに私を見つめて続ける。

 「── 椿さん。ずっと大切にするので、オレと付き合ってください」

 ……こんなに幸せなことがあっていいのだろうか。感極まり過ぎて、咄嗟に言葉が出てこない。
 
 束の間の沈黙を埋めるように、二人の間を爽籟(そうらい)が吹き抜けた。

 垂れ目がちな彼の瞳がさらに垂れ、私の答えを待ちながら不安げに揺れている。

 そんな彼がとても愛おしくて、私は泣きそうになりながら真山さんの手に自分の手を重ね、震える唇を一生懸命動かした。

 「私も、真山さんのことが好きです。オンの姿もオフの姿もどっちも大好きですって、私の方こそずっと言いたかった。ヘタレなのは私の方です……」

 勇気を出してそう伝え終わるや否や、彼の瞳が甘く蕩けて、気づけば私はぎゅっ、と真山さんに抱きしめられていた。

 「……嬉しい。じゃあ、ずっとあの時間が続けられるんだね。寒くなって、屋上で飲めなくなっても」

 ぎゅうぎゅうと苦しいくらいに抱きしめられて、ぐりぐりと頭に頬を擦り付けられる。

 ……どうしよう、何だか可愛い。

 また私の知らない真山さんを一つ知ることができた。