「── 椿さん。あの時はごめん。随分酷い言い方をした」

 両手の拳を太腿に乗せ私にしっかりと向き合って頭を下げる彼を見て、驚くのと同時に確信する。やっぱり彼には今、大切に思う人がいると。

 以前の私なら傷ついた心に蓋をして、頭を上げてください、気にしてませんから、なんて上辺だけの無難な言葉で取り繕って終わらせていたと思う。

 だけど、理不尽な言葉に傷つかなくていい、怒っていいんだと、他の誰でもない、私を最初から丸ごと受け入れてくれた真山さんが教えてくれたから。

 だから取り繕わない私の言葉で、ちゃんと彼と向き合って決着をつけたい。

 「金原さん。私、あの時とても傷つきました」

 「……うん、ごめん」

 「外で頑張っている分、家ではお互い気の抜けた姿を晒して、二人で笑い合いたかったです」

 「……うん、ごめん」

 「オフのひどい姿も、認めてほしかったです」

 「ごめん」

 「ひどい、は否定してくれないんですね」

 「……ごめん」

 さっきからごめんしか言わない正直な金原さんに、つい笑いそうになってしまう。

 「いいです。実際ひどいし、それを受け入れられるほど私に気持ちがなかったってことだったんだと今なら思えますし。……でも、そんな私も含めて〝いいと思う〟って言ってくれる人に出会えたから。私はもう大丈夫です」

 「……うん」

 「今度は、間違えないでくださいね」

 「……ああ、肝に銘じておく」

 そこでようやく顔を上げた金原さんが、少しだけ笑った。

 「じゃあ、もうお互い過去のことは忘れましょう。これからも、弊社の新商品のプロモーションに力を貸してください」

 「……ありがとう。もちろん尽力させていただきます」

 差し出した私の手を彼が力強く握る。その瞬間、お腹の底で燻っていたものが完全に消化された気がした。