「椿さん?……って、あれ、これセクハラかな……?ごめん!」
私の沈黙をすごい方向に勘違いした真山さんが慌てて私から手を離した。そこで、こうして触れられたのは初めてだったことに気づく。触れられた場所が、手が離れてもなお熱を帯びている。
「あ、いえ!大丈夫です!……あの、エントランスの彼は、新商品のプロモーションに携わって下さってる代理店のプランナーさんで。……以前、お付き合いしていた方なんです」
その熱の余韻を感じながら、飲み込んだ言葉の代わりに打ち明けた。
屋上で、恋愛関係の話は一度もしたことがなかった。私は意図的な部分があったけれど、真山さんはどうだったのかはわからない。単に、私のそれに興味がなかっただけだと思うけれど。
続きを待つ静かな視線に、私は続ける。
「別れてから二年ほど会っていなかったので、急な再会に驚いてしまって」
「……あまり、いい別れ方じゃなかった?」
前髪の隙間から覗く瞳が、私を気遣うように細まった。
「……はい。彼とは仕事で知り合って告白してもらってお付き合いしたんですけど、オフの姿の私は受け入れてもらえなくて。〝君には騙されたよ〟って言われてフラれちゃったんですよね」
その言葉は、口に出せば二年経った今でも私の心を抉る。まるで、外面を取り繕っている私にしか価値はないと、取り繕わない本来の私には何の価値もないと言われているみたいで。
だけど、何もそこまで馬鹿正直に打ち明けなくてもよかったかもしれない。真山さんを困らせたくはないのに、いろんな動揺が重なって私から冷静な判断力を奪っている。
私の沈黙をすごい方向に勘違いした真山さんが慌てて私から手を離した。そこで、こうして触れられたのは初めてだったことに気づく。触れられた場所が、手が離れてもなお熱を帯びている。
「あ、いえ!大丈夫です!……あの、エントランスの彼は、新商品のプロモーションに携わって下さってる代理店のプランナーさんで。……以前、お付き合いしていた方なんです」
その熱の余韻を感じながら、飲み込んだ言葉の代わりに打ち明けた。
屋上で、恋愛関係の話は一度もしたことがなかった。私は意図的な部分があったけれど、真山さんはどうだったのかはわからない。単に、私のそれに興味がなかっただけだと思うけれど。
続きを待つ静かな視線に、私は続ける。
「別れてから二年ほど会っていなかったので、急な再会に驚いてしまって」
「……あまり、いい別れ方じゃなかった?」
前髪の隙間から覗く瞳が、私を気遣うように細まった。
「……はい。彼とは仕事で知り合って告白してもらってお付き合いしたんですけど、オフの姿の私は受け入れてもらえなくて。〝君には騙されたよ〟って言われてフラれちゃったんですよね」
その言葉は、口に出せば二年経った今でも私の心を抉る。まるで、外面を取り繕っている私にしか価値はないと、取り繕わない本来の私には何の価値もないと言われているみたいで。
だけど、何もそこまで馬鹿正直に打ち明けなくてもよかったかもしれない。真山さんを困らせたくはないのに、いろんな動揺が重なって私から冷静な判断力を奪っている。



