それでも私の異名は伊達じゃない。

 仕事に対するプライドと気力で立て直し、それからいくつか気になるところを相談させていただいたのち、その場で修正できなかったものは持ち帰って次回までに、ということになった。

 「──では、 本日もありがとうございました」

 定例の言葉で締め、自分のノートパソコンを閉じようとした時。

 「── 朝宮さん。椿さんと少し今後の話があるので、先に下に降りててください」

 向かいに座っていた真山さんが、立ち上がってすでに出口に向かいかけていた朝宮さんにそう言った。

 何だろう、何か伝え忘れでもあったかな。そう思いながら成り行きを見守っていると、

 「……わかった。エントランスで待ってる」

 真山さんのあとに私に視線を移した朝宮さんは、笑顔で軽い会釈だけして退出していった。

 「── 椿さん」

 ドアがしまった瞬間、真山さんが優しい声色で私の名前を紡いだ。

 「はい、何かありましたか?」

 「……それはこっちのセリフです。椿さん、何か、ありましたか?」

 「え……?」

 真山さんの眉が、さっき見たみたいに困ったように下がる。