「── うん、オレも。この姿の椿さんを見つけられたのがオレで、良かったと思う」
そこに、あまりにも優しい声が返ってきたので隣の彼を見上げれば、私たちの周りに漂う夜気をふわりと揺らすように真山さんが笑った。それは、色なき風に少しだけ冷やされた頬を優しく撫でてくれるような、そんな穏やかな温度の笑みだった。
「いつも仕事を頑張ってるオンモードの椿さんはとてもかっこいいけど、自転車に乗れないって恥ずかしそうにカミングアウトしてくれたり、気の抜けた格好で缶ビールを幸せそうに飲んでたり。そんな飾らないオフモードの椿さんを、オレが知れてよかった」
ドキッとした。その言い方はまるで、そんな私を他の誰にも知られたくないと思っているようにも聞こえたから。
だけど、そんな訳はない。私が『この姿を見られたのが真山さんでよかった』と言ったから、そう言ってくれたまでのこと。
ちゃんとわかっている。あいにく私の頭は、そこまでおめでたくはない。
「……私も。オンモードの真山さんはとてもかっこいいと思いますけど、webデザイナーなのに絵は下手なところとか、あくまで自分は自転車の代わりだからって、絶対に私にエコバッグを持たせてくれない頑固なところとか。そんな飾らないオフモードの真山さんを、私が知れてよかったと思ってますよ」
私の方は、「そんな真山さん、他の人には知られたくないなぁ」という気持ちを言外に込めわざと戯けたようにそう返せば、彼が声をあげて笑った。
「あれ、いつの間にか結構言うようになったねぇ、椿さん」
この人は、私に対してほぼ敬語が取れてきていることに気がついているのだろうか。
この時点でもう確実に恋の輪郭を帯び始めている気配を感じたけれど、私はその輪郭を一生懸命消しゴムで消す。
この二人だけの特別な時間を、失いたくはないから。
そこに、あまりにも優しい声が返ってきたので隣の彼を見上げれば、私たちの周りに漂う夜気をふわりと揺らすように真山さんが笑った。それは、色なき風に少しだけ冷やされた頬を優しく撫でてくれるような、そんな穏やかな温度の笑みだった。
「いつも仕事を頑張ってるオンモードの椿さんはとてもかっこいいけど、自転車に乗れないって恥ずかしそうにカミングアウトしてくれたり、気の抜けた格好で缶ビールを幸せそうに飲んでたり。そんな飾らないオフモードの椿さんを、オレが知れてよかった」
ドキッとした。その言い方はまるで、そんな私を他の誰にも知られたくないと思っているようにも聞こえたから。
だけど、そんな訳はない。私が『この姿を見られたのが真山さんでよかった』と言ったから、そう言ってくれたまでのこと。
ちゃんとわかっている。あいにく私の頭は、そこまでおめでたくはない。
「……私も。オンモードの真山さんはとてもかっこいいと思いますけど、webデザイナーなのに絵は下手なところとか、あくまで自分は自転車の代わりだからって、絶対に私にエコバッグを持たせてくれない頑固なところとか。そんな飾らないオフモードの真山さんを、私が知れてよかったと思ってますよ」
私の方は、「そんな真山さん、他の人には知られたくないなぁ」という気持ちを言外に込めわざと戯けたようにそう返せば、彼が声をあげて笑った。
「あれ、いつの間にか結構言うようになったねぇ、椿さん」
この人は、私に対してほぼ敬語が取れてきていることに気がついているのだろうか。
この時点でもう確実に恋の輪郭を帯び始めている気配を感じたけれど、私はその輪郭を一生懸命消しゴムで消す。
この二人だけの特別な時間を、失いたくはないから。



