「……真山さんは私の社内での異名、聞いたことありますか?」
私は静かに口を開いた。
「ああ、うん。〝クールビューティー〟、ですよね?」
……やっぱり知られていたか。〝微笑みの王子〟という自身の異名を知っていた時点で、何となくそうだと思ってはいたけれど。
「それ、すっごく恥ずかしいんです」
「え?」
テーブルを挟んだ隣をちら、と見れば、メガネの奥の真山さんの垂れ目がちの瞳が少しだけ丸くなったのが見えた。
「ただ、人見知りで口下手なだけなんです。初期の頃同僚と雑談している時とか、口に出す前についいろいろ考え過ぎてしまって。結局しゃべるタイミングを逃しちゃって、なんていうのを繰り返しているうちに、キツめの顔も相まって何かクールだよね、って言われるようになって。そんなだから、そこにビューティーまでくっついた日には卒倒しそうになりました。実際はこんななのに」
ふ、と、そこで真山さんが小さく吹き出して、慌てて「ごめん」と謝るから私は笑いながら首を振って前を向く。
「仕事だって、クールさのかけらもありません。何事もすごく準備して臨まないと不安だし、人と接するのも得意じゃないので内心いつもテンパってます。それが出ないようにしているだけで。ほんと、いつの間にか取り繕うことばかりうまくなっちゃって嫌になります」
こんな話を自分から誰かにしたのは初めてだ。私はそこで一旦言葉を切って、小さく深呼吸した。
「── だけど、ここでこうして真山さんのことを知るたびに、この取り繕わない姿を見られたのが真山さんでよかったと思うんです」
それは、今の私の精一杯。
恋になりそうな気持ちを悟られたくはないけれど、あなたとここでこうしていられる時間は、私にとってはとても大切で特別なんですよと、それだけはどうしても伝えたかった。
向かい合っていないからこそ、言えたのだと思う。
私は静かに口を開いた。
「ああ、うん。〝クールビューティー〟、ですよね?」
……やっぱり知られていたか。〝微笑みの王子〟という自身の異名を知っていた時点で、何となくそうだと思ってはいたけれど。
「それ、すっごく恥ずかしいんです」
「え?」
テーブルを挟んだ隣をちら、と見れば、メガネの奥の真山さんの垂れ目がちの瞳が少しだけ丸くなったのが見えた。
「ただ、人見知りで口下手なだけなんです。初期の頃同僚と雑談している時とか、口に出す前についいろいろ考え過ぎてしまって。結局しゃべるタイミングを逃しちゃって、なんていうのを繰り返しているうちに、キツめの顔も相まって何かクールだよね、って言われるようになって。そんなだから、そこにビューティーまでくっついた日には卒倒しそうになりました。実際はこんななのに」
ふ、と、そこで真山さんが小さく吹き出して、慌てて「ごめん」と謝るから私は笑いながら首を振って前を向く。
「仕事だって、クールさのかけらもありません。何事もすごく準備して臨まないと不安だし、人と接するのも得意じゃないので内心いつもテンパってます。それが出ないようにしているだけで。ほんと、いつの間にか取り繕うことばかりうまくなっちゃって嫌になります」
こんな話を自分から誰かにしたのは初めてだ。私はそこで一旦言葉を切って、小さく深呼吸した。
「── だけど、ここでこうして真山さんのことを知るたびに、この取り繕わない姿を見られたのが真山さんでよかったと思うんです」
それは、今の私の精一杯。
恋になりそうな気持ちを悟られたくはないけれど、あなたとここでこうしていられる時間は、私にとってはとても大切で特別なんですよと、それだけはどうしても伝えたかった。
向かい合っていないからこそ、言えたのだと思う。



