「高校からは一人暮らしさせてもらってようやく落ち着けたけど、小学生の頃から身についた処世術って、なかなか抜けないものだよね。〝微笑みの王子〟なんて、大層な異名をつけてもらってるみたいだけど」

 そう言って寂しそうに自嘲した横顔に差す夕闇が、彼に孤独の影を落としているように見えて胸がきゅう、となった。

 「だからオフのこの姿はその反動かな……って、ああごめん、急にこんな話。椿さん、そんな顔しないで?」

 真山さんが、私の顔を覗き込んで困ったように笑う。

 私と話す時、たまに敬語が外れるのはバリアーが緩んでいるからだろうか。

 打ち合わせの時に見せる綺麗な微笑みじゃなく、時折少年のようなあどけない笑みを見せてくれるのは、ちょっとは心を開いてくれているからだろうか。

 そんな風に考えてそんな些細なことを嬉しく感じてしまった瞬間、私は不覚にも、真山さんに惹かれている自分に気づいてしまった。

 いつからかはわからないけれど、最初から私のオフモードを否定もせず、笑うこともせずに当たり前のように受け入れてくれた彼に、私は惹かれていたのだ。これが恋という輪郭を帯びるのに、そう時間は掛からない気がした。

 ……ああ、恋なんてもう、したいとも思わなかったのに。 


 「椿さん?」

 だけど、この穏やかで心地よい時間と関係をなくしたくはないから。

 つい今しがた自覚してしまったこの気持ちは、絶対に悟られたくはない。だけど。