それから言葉通りほんの数分で戻ってきた彼が手にしていたのは、スケッチブックとペンだった。

 順番にお題を出して、それぞれが描く。

 真山さんの思いつきで始まったそれは、ほろ酔いのテンションも相まって、私たちのお腹が捩れるほどに盛り上がった。

「ふ、はは……!椿さん、これはちょっともうあの猫型ロボットに謝ったほうがいいよ」

「真山さんこそですよ!こんな凶悪な人相の猫型ロボット、子供たち絶対泣いちゃいますから!」

……このように、二人とも本当に絵心がなさ過ぎて。


 「── しかしあれだな。これ、保育園児のお絵かき帳みたいになったな」

 散々色々描いたスケッチブックをペラペラめくって独り言のように言った真山さんが笑うから、私もつられて笑う。

 「そうですね。でも、今時の保育園児の方が私たちより上手いかもですけど」

 「それは一理ある」


 描いて笑って、食べて飲んで。

 本来人見知りの私が、全く気負わずに自然体でいられるこの空間があまりにも居心地がよくて。

 すっかり空が藍色に飲み込まれて風が少しひんやりとしてきたことに気づくまで、私たちは、息抜きというには思いの外長い時間をそこで過ごしたのだった。